水納島の魚たち

ナメモンガラ

全長 25cm(写真は3cmほどの幼魚)

 2016年の夏のこと。

 砂底に点在するちょっとした岩などに、その年生まれと思われるモンガラ類の小さな幼魚が目立つようになっていた。

 とりわけアカモンガラのチビは数が多く、遠目からでもその存在がわかる。

 アカモンガラもやはりオトナに比べればチビは随分可愛いから、岩にたくさんついているチビがヒラヒラヒラヒラ泳いでいると、ついつい近づいて眺めてみたくなる。

 すると、アカモンガラにしてはやけに色味が異なるチビターレがいることに気がついた。

 それも1匹2匹の話ではなく、アカモンガラのチビがいそうなところに、何匹もいる場合も。

 はてさて、このチビはなんじゃらほい?

 調べてみると、なんとなんとナメモンガラの幼魚のようだ。

 かつてワタシは夏場のひと月半ほど八丈島のホテルでアルバイトをしたことがあり、その後一週間ほどダイビングをした。

 現地サービスの方には沖縄から来ていると伝えているにもかかわらず、ガイドさんがたった1匹だけいる死滅回遊魚生き残り組らしきアケボノチョウを一生懸命教えてくれたり、穴の中からなにを取り出すのかと思ったらオトヒメエビだったりしたのはご愛敬。

 沖縄から来ている身には、八丈島ではあたりまえすぎてガイドさんがいちいち指し示さない魚こそ、是非観てみたい魚たちだ。

 現地であたりまえにたくさんいる魚といえば、レンテンヤッコにトサヤッコ、ユウゼン、そして「モドキ」じゃないウメイロたちそれぞれの、圧倒的な数の多さがとても印象に残っている。

 ナメモンガラもまた、八丈島ではあたりまえにたくさんいる魚たちで、潮通しのいいポイントで潜れば、まさに「乱舞」しているといっていいいほどだった。

 ナメモンガラはそういうった環境が好きらしく、水納島のお向かいの伊江島のドロップオフで潜ると、ある程度の水深よりも深いところで、ドロップオフの壁沿いにヒラヒラハラハラと行きつ戻りつするナメモンガラの姿がチラホラ観られた記憶がある(最近どうなのかは知りません)。

 水納島では残念ながら、生息環境的にナメモンガラのオトナなどまず観られない。

 そんなナメモンガラの3cmほどのチビターレが、砂底の小岩のそこここにやたらといるだなんて。

 幼魚となると、本場(?)八丈島で潜っているガイドさんたちですら観たことがないとおっしゃるほどのレアものだという(リサーチ@2016年)。

 おそらくチビチビたちは、オトナたちがフツーに観られる場所とは異なるところで過ごしているからなのだろう。

 その「異なるところ」が水納島の砂地に点在する小さな岩ってことなんだろうか?

 上の写真のように黄色っぽいもののほかに、青味がかったものもいた。

 もっと青っぽいものもいて、そうなると遠目には……いや、近くから観ても写真で見ても、アカモンガラと区別するのがムツカシイ。

 なので、これまでずっとアカモンガラだと思っていたチビターレの中に、フツーにナメモンガラも混じっていたのかもしれない。

 …ということを踏まえ、翌2017年の同時期にも同じようにナメモンガラが観られるかとサーチしてみたところ、これがまったく1匹として出会えず。

 そして2018年も、ついにナメモンガラチビターレを見かけることはなかった。

 今年(2019年)がどうなるかはまだわからないけど、ひょっとすると2016年のあのナメモンガラ・チビターレ祭りは、ハレー彗星なみの周期に運よく巡りあわせていたのかもしれない。

 写真撮っておいてよかった……。

 追記(2022年12月)

 2019年以降も、2016年のようにナメモンガラ・チビターレ祭りは観られていないけれど、ポコ…ポコ…と1匹ずつくらいいることはあった。

 今年(2022年)の秋にも1匹(もしかしたらもう1〜2匹いたかもしれない)確認。

 けっしていないわけではないとはいえ、せいぜい1〜2匹。

 やはりあの年のチビターレ祭りは、水納島では千載一遇だったようだ。