水納島の魚たち

ニジエビス

全長 13cm

 夜の帝王たちの多くは、赤を基調としている。

 かなり鮮やかできれいなものが多いのだけど、海中でライトを当てずに見ると、なまじ赤いために茶色く沈んだ色に見えてしまう(光の性質上、水深が増すにつれ赤味が失せていくため)。

 このニジエビスたちも、ライトを当てて初めて本来の実力(?)がわかる魚たちだ。

 図鑑には「単独でいる」と書かれていることもあり、多くの解説では日中は岩穴や岩陰に隠れている、とされている。

 ところが水納島では(他所でも同様と思われる)季節を問わずたいてい群れていて、しかも日中でもフツーに集団で表に出ている。

 これは水深20m弱ほどの砂地の根で、その程度の水深であれば白い砂地だととても明るい。

 にもかかわらずニジエビスたちは、表に出てこのように集まっているのだ。

 近づくと警戒していったんは根の隙間に逃げ込むけれど、ジッと待っているとやがてソロリソロリと1匹ずつ顔を出しはじめ、そのうちみんな出てくる。

 ニジエビスが明るい海中で表に出ているというのは特に珍しいことではないようながら、青い海を背景にした赤い色の群れという写真はなかなか撮るチャンスが少ないから、なにげに貴重なシーンなのかも。

 もっとも、前述のとおり肉眼では彼らの姿はこのように赤く見えないから、せっかく群れていてもそうと気づかずにスルーしてしまうゲストは多い。

 彼らの本来の色を知ってさえいれば、脳が赤味を変換してくれるため多少は赤く見えるんだけど、知らない方には、おそらくワタシの目に見えている以上に地味に見えているに違いない。

 いずれにしても、ニジエビスの集団を観察しようと思ったら、こちらが無害であることを彼らに認知してもらわなければならない。

 いったん引っ込んでしまっても、そのままジッとしてさえいれば、きっと無害認定をしてもらえることだろう。

 すると、気を許したニジエビスたちは、こういう姿も見せてくれる。

 ヒレを広げるとカッコイイ。

 さらにリラックスしてくると……

 アクビも披露してくれる。

 そうなる頃にはもう、一度逃げて隠れたのがウソのように、そばにいるワタシのことなどまったく眼中に無くなり、普段の様子を見せてくれるようになる。

 ニジエビスたちは、集いつつ群れの中でよくじゃれ合う。

 また、近くにいるホンソメワケベラの幼魚が近づいてくると……

 普段はキッと口を結び、ヒレをたたんでシャンと取り澄ましている彼らも、ホンソメワケベラに身をゆだねるときは、けっこうだらしなくなるのだった…。