水納島の魚たち

ニセタカサゴ

全長 MAX30cm おおむね25cm

 沖縄でグルクンと呼ばれる魚は、沖縄の県魚である……ということや、ひとくちにグルクンといっても、実は何種類もの魚の総称である……ということは、すでにみなさんご存知のとおり。

 グルクンと深くかかわっているウミンチュや県内釣り人の世界では、ほぼそれぞれの種類ごとに〇〇グルクンと名をつけて区別しているのだけれど、とりあえず一般的には全部グルクンだ。

 そのグルクンの中でも、ザ・グルクンといえばタカサゴ。

 尾ビレの上下端にチョンチョンと黒ポッチリがついているライトブルーの魚、それがタカサゴ、ケンミンの魚。

 今日もまた、タカサゴたちは元気いっぱい群れている……

 …と思いきや。

 実はこの群れ、ほぼほぼすべてニセタカサゴなのだ。

 群れ全体を観てすぐさま本家かニセかなんてことはわからないものの、本家タカサゴとニセタカサゴ、撮った写真をモニターで拡大すれば、見分けるのはかなり容易だ。

 タカサゴもニセタカサゴも、淡いブルーに黄色い線というボディの配色は同じながら、タカサゴの上から2番目の黄色い線は、側線とズレている。

 側線とは、なにやらいろいろな働きがある、魚には欠かせない体の重要部位で、上の写真ではまるでボールペンで上書きしたかのように見える部分で、実際にこうなっている。  

 それに対しニセタカサゴは、2番目の黄色い線がその側線上にピッタリマッチ。

 写真の両者の青味の加減の違いは、使用機材と撮り方の違いで、基本的に色味は同じ。

 黄色いラインの太さに違いがあるようにも見えるものの、この側線と黄色いラインの位置が、我々シロウトには唯一のチェックポイントになる。

 両者は行動を共にしていることもあるので、一緒に見比べてみるとわかりやすい。

 どっちがどっちか、もうおわかりですね?

 以上を踏まえ、過去に撮ったタカサゴ系の群れを、モニター上で拡大しながら観てみたところ、先に紹介した群れの写真のほか…… 

 これも……

 これも……

 これも……

 撮った時代も場所も全然違うのに、どういうわけだか、み〜んなニセタカサゴ。

 ゲストにはこれまでずっと「タカサゴです」と案内してきたし、海中で観ているときも撮っているときも、五分五分くらいでタカサゴの群れなのだろうと思い込んでいた。

 ところがこうしてチェックしてみたら、少なくともワタシは、タカサゴの「群れ」の写真を持っていないことが判明してしまった。

 タカサゴがホンソメワケベラのクリーニングをグループで受けている写真や、イッセンタカサゴと一緒に泳いでいる写真はあるから、けっして本家タカサゴがいないわけじゃない。

 にもかかわらず、タカサゴの群れの写真がない。

 実は水納島では、タカサゴの個体数が少ないのか??

 なんてことだ、これまでは遠目では区別がつかないことをいいことに、ゲストには「タカサゴ」とひとまとめに案内してきたというのに、実はまったく真逆だったとは。

 というわけで、水納島の場合、砂地の根で群れているタカサゴっぽい魚は、ほぼニセタカサゴと安心して断定しまおう(大御所大方洋二さんのブログを拝察したところ、他の海では逆の構成になっているらしい…。)。

 さて、そのニセタカサゴ。

 中層〜上層で群れ集まり、プランクトンを食べているニセタカサゴたちもやはり、何かに驚いたりすると海底付近に下降してくる。

 彼らが驚く原因には、ボートが通過していったり、ダイバーの吐く泡がたくさん上がってきたりなどいろいろあるけれど、大型のプレデターが接近してくる場合もそのひとつ。

 大きなイソマグロや写真のコガネアジなどが悠然と近づいてくると、中層〜上層でゴキゲンにプランクトンを食べていたグルクンたちは、群れごと一気に海底に避難してくる。

 その際全員がサッと動くときに、「ビュンッ!」という群れの音が聴こえる。

 その音で、「なにか大きな魚が近寄ってきたか?」と気づくこともあるほどだ。

 そのあと下降してきて根の周りなどに逃れてくると、ニセタカサゴたちはしばらく狂乱状態になる。

 たくさんのグルクンたちが一カ所にギュッと集まってくれるのはいいのだけれど、狂乱状態も度が過ぎるとてんやわんやぶりが激しすぎ、どう撮ってもバラバラのめちゃくちゃにしかならない。

 一方、根に降下してきてもさほどしっちゃかめっちゃかになっていなければ、けっこうフォトジェニックになる。

 ニセタカサゴたちもやはり、根に降下してくると体色を赤く変えることが多い。

 興奮色なんだか条件反射なんだか、根の上にいる時間が長ければ長いほど、赤くなっている子の数も赤味も増す。

 青く涼し気な普段の色合いからは想像もできない色。

 漁獲され水揚げされたグルクンはこういう色になるので、スーパーや市場の店頭に並んでいるものたちは軒並み赤い。

 そのため、県魚としてグルクンを称える沖縄県民の多くは、グルクンたちを「赤い魚」として認識していたりする。

 赤くなるといえば、このように日中の興奮色もさることながら、夜眠っている時の彼らはよりいっそう赤い。

 なにがあったの?どうしたの??

 と、思わず揺さぶり起こしたくなるこの変わりよう。

 しかし熟睡しきっている彼らは、たとえ揺さぶり起こしたとしても、しばらくはフラフラ〜と夢遊病者のように動くだけ。

 不思議なことに、日中はあれほどたくさん群れているというのに、夜寝ている時はみんなそれぞれ個室状態で岩陰に潜んでいる。

 夕刻になるとリーフエッジ沿いを多数のグルクンたちが群れるようになるのは、やはりその夜の寝床を物色しているのだろうか。

 そんなニセタカサゴたち、5月頃になると、オトナのスーパー巨群にちょくちょく出会うようになる。

 初夏から夏にかけてが繁殖期と言われているから、きっと繁殖に伴うイベントなのだろう(この時期の刺身がたいそう美味しい)。

 そのイベントからしばらく経った7月になると、年によってはチビたちが各根ごとに大群を見せるようになることもある。

 5cmほどと小さすぎるために種類までわからないものの、ここに写っているものたちは尾ビレの先に黒いチョンチョンがうっすら見えているので……

 ……タカサゴ系であることは間違いない(ですよね?)。

 そんなチビたちが、ときにはキンメが群れ集う根をそのまま覆うくらいに群れるほどに。

 毎年このように群れてくれれば賑やかで楽しいのに、あいにく年によってマチマチで、ここまでグルクンチビがフィーバーすることは滅多にない。

 これからさらにひと月ほど経つと……

 10cm弱ほどのサイズになって、ニセタカサゴであることがわかるくらいにまで成長したチビたち(↓一部拡大)が……

 ……根の近くで群れ始める。

 この量ともなるとこれまた毎年観られるものではなく、これと同じ時に他の場所でクマザサハナムロのチビもすごい群れになっていたところをみると、この年は、きっとどこかの海でとてつもないグルクン大繁殖祭りになっていたのだろう。

 普段潜っているところで幼魚のフィーバーが観られるかどうかにかかわらず、たいてい秋頃になると、成長した若魚の群れが、根の近くの中層に群れ集うようになる。

 その年生まれの子たちなのか、それとも前年生まれの子たちなのかは定かならないものの、これくらいのサイズの頃までは拠り所とする根からさほど離れずに群れているから、しばらくの間はいつ行っても巨群に塗れることができて楽しい。

 年々変わりゆく水納島の海ながら、まだグルクンたちは「豊饒の海」でいてくれている。

 グルクンがいない水納島の海なんて、イチローがメジャーリーグに旅立った直後のオリックスのようなものでしかない……(※個人の感想です)。