水納島の魚たち

ニシキオオメワラスボ

全長 8cm

 その昔、まだ和名が付けられていなかった頃、ニシキオオメワラスボは「ネオンワームゴビー」という英名で呼ばれていた。

 海中ではくすんで見えるオレンジのラインよりも、むしろ地色のブルーがその英名のとおり目立つ。 

 水納島ではクロエリオオメワラスボと同じくらいフツーに観られる……

 …のは、なぜだか一部限定で場所が限られているニシキオオメワラスボ。

 クロエリオオメワラスボに比べ、ニシキオオメワラスボは礫混じりの砂底を好むのか、水納島のいくつかある砂地のポイントのなかでも、彼らをいつでもフツーに観ることができるのはほぼほぼ一か所だけなのだ(他ではまったく観られないというわけじゃない)。

 しかもそこはシーズン中になると本島からやってくるダイビングボートが二六時中何隻も停まっているために、せっかく辺鄙な離島に来てくださっているゲストに海中で他所から来ているダイバーと会わせたくない我々としては(ゲストのみなさんはダイバーを観るために高いお金を払っているわけじゃないですからね)、なかなか訪れることができない「秘境」でもある。

 おまけにニシキオオメワラスボは、そっと近づこうと思っても、クネクネと体をくねらせながら逃げ去っていき、しまいには砂中に隠れてしまうから、フツーに居るのになかなかフツーには観られない。

 それでもクロエリオオメワラスボに比べると、ニシキオオメワラスボは穴の中に隠れてしまうまでが随分我慢強いので、気長に付き合えば写真を撮らせてくれるくらいには近寄れる。

 ただし近寄らせてくれているときは、彼ら的にはいつでも穴に逃げ込む準備ができている状態らしい。

 でまた緊急避難で逃げ込む穴は自前じゃないようで、どさくさまぎれに他人(他種の魚)の穴でも平気で利用しているフシがある。

 しつこくカメラを向けながら追い続けていたニシキオオメワラスボが急に逃げるのをやめ、妙にフレンドリーに静止してくれているなぁ…

 と思ったら、彼の真下には……

 ジョーフィッシュがいたのだった。

 いざとなったらジョーフィッシュの巣穴に逃げ込むつもりだったに違いない。

 あいにくこのツーショットを撮りたかったものだから、これ以上近寄らずに撮っていると、やがてニシキオオメワラスボは静かにこの場を離れてしまったため、ジョーフィッシュの巣穴にホントに逃げ込むこともあるのかどうかは確認できず。 

 ところで、クロエリオオメワラスボは、ホバリングしている時はほぼほぼ体を真っすぐにしているのに対し、ニシキオオメワラスボは、ホバリング中も泳ぐときも、絶えず体をクネクネさせている。

 そのため、体が一直線になっている状態で撮りたいと思っても、クネっとして尾ビレが隠れてしまうかと思えば、よしこれで一直線!と思っても、写真をよく観ると体の真ん中あたりがクネッとなっていたりする。

 冒頭のようなごくフツーの写真を撮るにも、思いのほか数撃たなきゃ当たらない。

 そんなニシキオオメワラスボとよく似た配色の魚にダイダイオオメワラスボなんてのがいる。

 ニシキオオメワラスボに比べるとより内湾を好むようながら、水納島ではニシキオオメワラスボがいるところでフツーに観られる。

 ともにオレンジのラインが目立つからややこしいものの、尾ビレの付け根付近側に黒斑があれば、ニシキオオメワラスボで間違いなし。

 同じオオメワラスボ科の魚だけあって、顔つきはクロエリオオメワラスボ同様下顎がガッシリしている。

 前述のとおり場所限定ながら個体数はわりと多いので、ニシキオオメワラスボ同士が意味ありげに接近して何かをアピールしているような動きはちょくちょく目にする。

 ただしそれがケンカなのか求愛なのか、定かならない。

 …と思っていたら、相手がダイダイオオメワラスボというときもある。

 写真は遠すぎて光が届いてないけど、尾ビレのあたりをみれば両者が別であることがわかる(右がダイダイオオメワラスボ)。

 これが出合い頭の縄張りアピール動きだとすれば、普段のニシキオオメワラスボ同士の行動も、求愛ではなくテリトリーの主張ということなのかもしれない。