水納島の魚たち

オオゴチョウイソハゼ

全長 2cm

 このハゼに初めて出会ったのは2012年6月、梅雨明け間もない初夏のことだった。

 普段よく訪れる砂地の根の片隅に、チラチラと動くきれいなイソハゼの姿が見えた(冒頭の写真)。

 それ以前にまったく同じ場所で、水納島では珍しいヒメニラミベニハゼを見かけたこともあったから、何かを呼び寄せる空間なのかもしれいない?

 それはともかく、見慣れないイソハゼだったので記録写真を残し、後刻「日本のハゼ」で調べてみたところ、当時はまだ和名が無く、イソハゼ属の1種で終わってしまった。

 たとえ和名が無くとも、水納島初記録種なのは間違いないので、この際つぶさに観ることに。

 2cmほどの小魚を肉眼でつぶさに観るのはつらいから、もちろんながら撮った写真をモニターで…。

 顔周辺を見てみると…

 目の周りの感じはアカホシイソハゼに似ているけれども赤星模様は無く、目の後ろに黄色い斑紋がある。

 またそれと同系色の色味が、背ビレの縁を彩ってもいる。

 こういう特徴があればわかりやすい……かも。

 ただ、元来南方系のイソハゼなのか、水納島ではそうしょっちゅう会えるわけではなく(クラシカルアイが進んだからかもしれないけど…)、再会はこの7年後まで待たねばならなかった。

 目の後ろの黄色い模様は、紛うかたなきこのハゼの印。

 ただし、待たねばならなかった…といいつつ、撮っている本人(ワタシのことね)はこのハゼと認識して撮っていたわけではなかったようで、すぐに逃げちゃったのか「とりあえず…」と思っただけだったのか、2枚しか撮っていなかったりする。

 今これを書いているときに気がついたことながら、面白いことに7年前とまったく同じ場所で撮っていた。

 この小さなハゼが7年も生き続けているとは思えないから、この場所はこのイソハゼがたどり着く特異点なのだろうか?

 …と思ったら、翌年(2020年)にはまったく違う場所で出会うことができた。

 なるほど、ポコポコ会えるわけではないにしろ、水納島にもけっしていないわけではないのか。 

 2020年時点でも依然このイソハゼは「イソハゼ属の1種」だったものの、図鑑にはちゃんとオスとメスが区別されて掲載されていた。

 図鑑に載っている雌雄のフォルムの違いはサルでも区別できるくらいわかりやすく、それを踏まえると、これまで目にしたことがあるのはすべてメスで、水納島ではまだオスを確認していない。

 そして昨年(2021年)、ついに「日本のハゼ」の改訂増補版が世に出て、このイソハゼにも立派な和名がつけられていた。

 その名もオオゴチョウイソハゼ。

 満を持してようやく和名がついたかと思えば、なんだよオオゴチョウって。大イチョウなら知ってるけど…。

 …と危うく無学をさらしかけたところ、オオゴチョウとはデイゴ、サンダンカとともに「沖縄三大名花」に数えられている花なのだとか。

 県民歴も相当長くなっているというのに、まったくその存在を知りませんでした……。

 結局無知をさらしつつも、晴れて和名がついたことだし、あとはオスの姿に出会うのを楽しみに……

 …と思ったら。

 なんと2年前(2020年)の4月に出会った↓このイソハゼは…

 オオゴチョウイソハゼのオスじゃないか!

 白い砂底環境だと、図鑑で観られる色味よりも薄いものが多くなるハゼたち…ということは他の多くの種類で知っているというのに、まさかこれがイソハゼ属の1種(当時)のオスだなんて、まったく思いもよらなかった。

 思いもよらなかったけれど、その顔の黄色い斑紋といい…

 …背ビレの縁取りといい、

 紛うことなきオオゴチョウイソハゼの印。

 2年前に撮った写真なのに、今頃気がついてしまった。

 < サルでもわかるはずなんじゃ?

 自覚の無いまま、雌雄との遭遇を果たしていたワタシ…。

 自覚は無かったけど、オスっぽい動きをしていたから注目したもので、この気張ったポーズのまま意味ありげに周辺にアピールしていた。

 そういえば、背ビレピンコ立ちという見慣れないフォルムに注目しつつ、ずっと撮っていたんだったっけか…。

 ああ、それと認識して観ていれば、お相手が近くにいるかどうかも確かめたろうになぁ…。

 7年経っても同じ場所にいたことだし、2年経っていてもまだこのオスは健在かもしれない。

 えーと……場所はどこだったっけ?

 ポイントはわかるけど細かい場所までは…でも多分あそこだったはず。

 さっそく追記

 その後念のために、もっともっと昔に撮ったポジフィルムの海を泳いでみたところ、なんとなんと、水納島に越してきてまだ2ヵ月しか経っていない95年4月に、いきなりこのイソハゼを撮っていたことが判明してしまった。

 当時世に出ていた図鑑にはもちろんこんなイソハゼの姿は見当たらなかったからだろう、フィルムマウントには「イソハゼの仲間」とだけ書いてあった。

 2012年の出会いは、実は17年ぶりの再会だったのである。

 それにしても、その当時にこのようなイソハゼに目ざとく気づいてパシャッと撮っていたワタシって、なにげにスゴイのかも。

 < ホントに凄いヒトは、撮っていたことを忘れないのでは?

 そりゃそっすね…。