水納島の魚たち

スジクロユリハゼ

全長 12cm

 アケボノハゼ同様、6気圧ほどの海底からダイバーを手招きするスジクロユリハゼ。

 生息水深が深く、おいそれと居場所を訪ねることができないこともあって、昔から変態社会人の間では人気が高い。

 アケボノハゼに比べると個体数はわりと多く、水納島でも居そうな場所にいけば、見える範囲にわりとポツポツ見られるので、写真を撮る際も探す手間がそれほどかからない(近年はどうか知らない)。

 また、オトナよりも若い頃のほうが体のオレンジ模様の色が明るい……

 …という記憶があるものの、そもそも延べ遭遇回数が少ないし、なにしろスジクロユリハゼに最後に会ったのは2011年のことだからアテにはならない。

 当時は行けば必ず会えた彼らではあるけれど、年がら年中写真のようにヒレを広げてくれているわけではない。

 海底にある巣穴の上方でホバリングしている時は、通常はこういうたたずまいになっている。

 これじゃあまりにも冴えないから、ヒレを広げてくれるのを待つことになる。

 ホバリングしながら餌を啄んでいる彼らは、わりと頻度高く(といってもしょっちゅうではない)ピッ、ピッとヒレを広げてくれる子もいれば、頑なに閉じたままでいる子もいる。

 その様子を拝見するためには、まずは巣穴に引っ込んでしまわないようにソロリソロリと接近し、あとは息を殺して彼(彼女?)がヒレを広げる一瞬を、水深45mほどの海底に這いつくばりながら待たねばならない。

 あとはヒレを広げてくれるのを待つばかりという段になって、つれなく巣穴に逃げ込まれたら、もうこのまま海の藻屑になってしまおう、と思ってしまうくらいの脱力感に見舞われる。

 また、待った甲斐あってヒレを全開してくれても……

 残念なくらいに背ビレが傷んでいたりすることもあるのだった。 

 そうして深い海底で粘ってしまえば、あとには長い長い減圧時間が待っている。

 さほどの成果もなく終わってしまうと、これがまたなんともしみじみムナシイのであった。