水納島の魚たち

タカノハハゼ

全長 8cm

 タカノハハゼは、水深3mよりも浅いところ、それも内湾にしかいないハゼだ。

 水納島には本来、このような魚たちが生息できる場所はない。

 が。

 ただひとつだけ例外が。

 裏浜である。

 陸水がない小さな島の、唯一の内湾汽水域環境だ(ノコギリガザミがたくさん住んでいるくらいだから、地下水が流れ出ることによって汽水域が形成されているフシがある)。

 普段潜っている海とはまったく異なる環境なので、そこで観られるお魚さんもちょっとばかし違うかも。

 そんな期待を胸に、干潮に向かうタイミングだったため水深50cmという、潜るというよりは這うしかない状態でウロウロズルズルしてみたところ………

 いた♪

 多くの図鑑に載っているタカノハハゼは、西表あたりの黒っぽい砂泥底で撮影されているため、その体色は全体に黒っぽく、体に散りばめられた模様は同じでも、それほど綺麗には見えない。

 それに比べて白い砂底にいるタカノハちゃんの、なんときらびやかで美しいことか………。

 随分昔にこの裏浜を探検した際に、チラッとその姿を見たような気がしたことはあったけど、こうして写真に納めたのはこの時が初めてだ。

 まるで座礁したジュゴンのように、浅い浅い海底に這いつくばっていた甲斐があった……。

 タカノハハゼが一緒に暮らしているのは、このエビちゃんだった。

 ホリテッポウエビ。

 ホリテッポウエビがリーフの外で他のハゼと住んでいるのを目にしたことはないから、内湾性の浅いところを好むテッポウエビなのだろう。

 お互いに相手がいてこそ共生が成り立つ彼らの暮らしを考えると、内湾と浅いところが好き、という好みが一致していないと、とてもじゃないけどずっと一緒にやってはいけない。

 彼らの世界には、性格の不一致による離別はないに違いない。

 追記(2021年12月)

 軽石禍のためにボートを島の桟橋に停めておくことができず、渡久地港に上架させてあるために、このオフ(2021年〜2022年)は絶好の海日和だというのにボートダイビングができない。

 仕方ないので普段は滅多に行かないビーチで潜る機会が増え(連絡船が欠航しているとヒトッコヒトリーヌ)、おかげで海水浴場エリアでタカノハハゼのチビターレに会えた。

 2cmほどのチビチビで、海中で観ているときはいったい誰なのかさっぱりわからなかった。

 肉眼では、ほとんどモノトーンに見えたのだ。

 後刻写真をPCモニターで観てみれば、モノトーンに見えた体には赤や青の点々が散りばめられていた。

 となるとやはりタカノハハゼでしょう。

 一緒に住んでいるエビは…

 ん?誰だこれ?

 どうやらホリテッポウエビが泥をかぶっているっぽい。

 そういえばシーズン中にビーチを変態的に潜る何人かのゲストから、ビーチエリアにもタカノハハゼがいるという話を聞いていた(写真を見せてももらった)けど、ビーチのなかで自分の目で確認したのは初めてのこと。

 ここにこのテのハゼがボコボコいれば、そっち方面の変態社会人さんは大喜びだろうけど、タカノハハゼといえば、先述のとおりマングローブ域などの内湾性のハゼ。

 このエビの泥のかぶり方を見ても、内湾環境っぽくなっているのがよくわかる。

 海水浴場エリアでそういうハゼがたくさんいるようになったからといって、けっして素直には喜べない…。