水納島の魚たち

タテジマヤッコ

全長 30cm

 水納島の海で観られるタテジマヤッコ属のうち、最も数多く最もフツーにいるのがこのタテジマヤッコだ。

 プランクトン食なので、エサ事情的に潮が当たることによってプランクトンが一定箇所に集まるような場所を好むので、ドロップオフや、お気に向かって伸びるリーフが途切れるあたりの潮通しの良いところに多い。

 クラゲのような御馳走が漂ってくると、ワッと集まってパクパクし始める。

 クラゲのところにサッと集まれるくらい個体数が多いということもあるからだろう、タテジマヤッコは同属のヤッコでは珍しく砂底に点在する根でもハレムを作っていることがあるため、同じように根の中層に集まっているアカヒメジやモンツキアカヒメジの群れを背景にして泳いでいることもある。

 砂地の根でも高さがあるところなら、潮が根に当たることによって中層にプランクトンが集まる場所があるから、ある程度の数であればタテジマヤッコたちの需要も賄える環境なのだろう。

 タテジマヤッコ属の仲間は雌性先熟の性転換を行い、雌雄で体色が随分異なる種類が多い。

 ところがこのタテジマヤッコだけは例外的にその差が微妙で、メスは↓こんな感じ。

 腹ビレが白く、尾ビレの上下に黒線があるのがメス。

 それに対しオスは…

 腹ビレが黒く、尾ビレの上下は白く、体側のラインの太さは皆一様で、もひとつオマケに特徴をあげると…

 額に黄色い模様が入っていて、眼の後ろのラインがブルーになっている(光の当たり加減では黒く見える)。

 水温が上がり始めてくると、興奮モードになっているオスは各ヒレを目一杯広げ、しきりにメスの前でプルプル体を震わせながら懸命にアピールする。

 プルプル…

 プルプル…

 プルプル…

 プルプル…

 プルプル…

 いわゆる求愛行動だ。

 もちろんプルプルする都度その場でメスに産卵を促しているわけではなく、メスのムード盛り上げ楽団的な意味もありつつ、最も大事なことは、縄張り内にいるメスたちに、「俺はここにいるぜ!」とばかり、オスとしての自らの存在をアピールするためでもあると思われる。

 なのでオスは、縄張り内にいる複数のメスに対し、ヒマさえあればプルプル…している。

 面白いことに、タテジマヤッコ属の魚たちは、中層の眼に見える範囲で少夫多妻の暮らしをしているという。

 一夫ではなく、少夫ということはつまり、多数のメスを複数のオスが統御しているのだ。

 こういう場合はやはり、「ハレム」とは呼ばないのだろうか。

 少夫多妻社会このメスにとってこのオスがオンリーユーというわけではなく、あっちのオスと産卵、こっちのオスと産卵をしていることになる。

 キリスト教になってしまう以前のローマ帝国、もしくは明治以前の日本各地の村祭り、毛遊び全盛期の沖縄のような、一大フリーセックス文化圏を作っているタテジマヤッコたちである。

 ただしメスからオスへ性転換する彼らのこと、縄張り内でのメスの自由度が高いと…

 …力を持ったメスは行動がやけにオスっぽくなる(額にオス印の黄色い模様が出始めている)。

 少夫多妻社会といっても、グータラしていたらたちまちその座を奪われるのかもしれないオスは、なにかと大変なようだ。