水納島の魚たち

タツウミヘビ

全長 60cm

 砂底からガイコツのような顔を出しているこの魚と初めて出会った際、おそらくは「ウミヘビ」と名のつく魚たちの仲間だろうということは見当がついた。

 けれど当時はまだネット上に魚の写真が星の数ほど出回っている時代ではなく、撮影した写真をもとに手元にある図鑑で調べてみても、残念ながら種類まではわからなかった。

 当時そういう場合の頼みの綱、たとえていうなら人類滅亡まであと1年となったときにイスカンダルを目指した不沈宇宙戦艦のような存在だった瀬能さんにおすがりして、初めてタツウミヘビという名を知った次第。

 海中ではこのガイコツのような顔をただチョコンと砂から出しているだけで、動きも無ければこれといって目立つ色彩でもない(赤い色は海中では黒っぽく見える)。

 そんな魚をどうやって見つけたのかといえば、それ以前に何度も何度も、小石を魚と間違えてはそーっと接近してしまう、というワナにはまってきたからである。

 何を見ても魚と思ってしまうそのアクティブなマヌケさが、意外な出会いにつながるのだ。

 タツウミヘビの体色はバリエーションが豊富なようで、その後桟橋脇の、それこそ桟橋のコンクリートの際際に潜んでいた子は↓こんな色をしていた。

 にわかには同じ魚だとはとても思えないけれど、彼ら「ウミヘビ」と名のつく魚たちは、黒目の大きさをネコ目状態からクリクリ状態まで、周囲の明るさに合わせてかどうか、自在に変えることができるらしい。

 夜中に出会ったものも、やはり……

 暗いと開く、その瞳。

 変化があるのは瞳のサイズだけではない。

 砂地の10mそこそこの根の近くでは、こういう色をした子とも出会った。

 根の近くといっても、根とはほとんど関係なさそうなこんな場所だ。

 こんなところで顔を出していたら、隠れるにしても小魚を襲うにしてもなんとも中途半端感。

 彼がここで何をしたいのかはともかく、ウミヘビというからにはその体は細長く、大きいモノで80cmくらいあるそうなんだけど、昼間に全身を見せることはまずない。

 ところが以前、どういうわけか桟橋脇で、タツウミヘビ(の仲間?)が絶命していたことがある。

 なんだか、ホセ・メンドーサとの15Rの死闘の果てに、真っ白に燃え尽きたボクサーのような美しさ……。

 なにがどうしてこうなったのかはさっぱり不明ながら、こうして全身を観ると、彼らの面白い特徴がわかる。

 というのも、彼らの目って、バランス的にとんでもなく前方にあるのだ。

 前出の朱に染まった子がこの白い子とまるっきり同種かどうかは不明ながら、似た仲間であることは間違いない。

 ということは、砂底から顔を出している際の彼らって、口のほんの一部分だけを覗かせているに過ぎないってことになる。

 まさかこんな巨大な口とは……。

 砂中から顔を出しているときは、微妙に口をパクパクさせている以外身動き一つしない彼らが、いざという時にどのようにこの巨大な口を使うのだろう?

 ああ観てみたい……。