水納島の魚たち

チンアナゴ

全長 35cm

 このヘンテコな魚を初めて海で見たのは、もうかれこれ30年以上前の大学2年生のとき(1987年)、座間味島での合宿のときだった。

 学生時代に普段潜っていたのは沖縄本島で、当時よく潜っていたポイントには手軽にガーデンイールが見られるような砂地のポイントがなく、このチンアナゴは我々にとってはなかなか見られない魚の一つだった。

 そんなおり、座間味の海中で初遭遇。

 砂底一面に、まるでムーミンのニョロニョロのように魚が生えている奇妙さときたら(↓この写真は水納島で撮ったものです)。

 ダイビングを始めてまだ1年と少ししか経っていなかったワタシにとっては、それは不思議的幻想空間だった。

 が、いかんせん合宿である。

 離島の合宿では現地ショップのガイドさんに引率してもらうスタイルで、普段とは違って大人数がゾロゾロと行進しているようなダイビングだったので、遠目に眺めることはできても、気のすむまで近づいてじっくり…なんてことはできるはずもなかった。

 その後ほどなくして、初めて水納島で潜る機会を得た際にはたいそう驚いた。

 白い砂底の至るところで、このチンアナゴの大盤振る舞い!

 なにしろ砂地の根の傍らにさえ、小群落を作っているほどだ。

 それ以来幾度となく目にしてきたチンアナゴ。

 今ではさすがに当時のようなオドロキはないものの、ゲストの方々の中にはもちろん「初めて見た」という方や、初めてじっくり見ることができた、という方もいるから、やはり砂地には欠かせない存在である(でもほとんどの方が3日でゲップが出るほど見飽きちゃうけど…)。

 まだこの魚の存在を知らない方だと、あの1本1本が魚なのですよ、という説明にまず驚き、それらは実は海底で全部つながっているのだ、と聞いて仰天するのだ。

 そんなジョークを飛ばせていられたのも今は昔。

 全国各地の水族館でチンアナゴをはじめとするガーデンイール類の展示が一般化し、メディアに取り上げられる機会も随分増えた今、ノンダイバーの方々にすら「チンアナゴ」という和名が広く浸透している。

 逆にひと昔前なら一般名称だった「ガーデンイール」のほうが、むしろわかってくれる方が減ってきているほどだ。

 それくらい社会的にフツーの存在になったチンアナゴだけど、水族館で展示されているものしかご覧になったことがないと、彼らの本来のたたずまいはわからないかもしれない。

 砂地でニョロニョロしているチンアナゴたちをよく見ると、てんでバラバラであるようでいて、みながみな同じ方向を向いている。

 餌となるプランクトンが潮の流れにのって漂ってくるから、自然とみんな流れに顔を向ける形になるのだ。

 余談ながら、上の動画でチンアナゴの背後でウロチョロしている大きな魚は、知る人ぞ知るサバヒーです。

 ロックオン

 流れが強くなればなるほど餌がやってくる頻度が増す。

 そのため、ダイバーが近づいてきたくらいで引っ込んでいたら埒が明かないってことになるからか、普段に比べるとチンアナゴたちが引っ込んでしまうタイミングが遅くなる=観やすい。

 そうやって餌を食べているチンアナゴ1匹1匹に注目してみると、その集中力はハンパではないことを知る。

 流れてくる餌を見つけるや、視線は一点集中!!

 そしてロックオン!

 また別のほうから流れてくると…

 ロックオン。

 さらに…

 ロックオン。

 そしてカメラはついに、ロックオンした餌をチンアナゴが食べる瞬間を捉えた!!

 へ〜んな顔!!

 せっかく「カワイイ」系キャラとして一般社会においても人気を高めたチンアナゴだというのに、百年の恋もいっぺんに醒めてしまいかねない真実の姿がここにあった。

 2人で1人バロムワンとゴレンジャー

 1匹1匹はこうしてニョロニョロしているチンアナゴたちは、一見しただけだとランダムに砂底から出ているように見える。

 でもよぉ〜く観てみると、バラバラなように思えて、実はわりとコンスタントに2匹ずつ並んでいることに気づく。

 きっとオスとメスなのだろう。

 そんなラブラブの彼らが、夜になるとどうしているのか、是非一度観てみたい…

 …という願望を抑えきれなくなったNHK取材班が、「ダーウィンが来た!」にて、知られざる夜のチンアナゴ の生態に迫っていた。

 ところで、コンスタントに2匹ずつになっているチンアナゴにもたくさん例外はあるし、見ようによってはフィンガーファイブになっていることもある。

 これはたまたまここに5匹いたものだけど、もっと生息密度が濃い群落でなら、さらに面白く撮れそうな予感が…。

 ブラック&ホワイト

 チンアナゴの群落を眺めていると、時々こういう子も混じっていることに気づく。

 黒いチンアナゴ。

 その周囲にはフツーのチンアナゴがいることが多いけれど、このように黒い子が何匹も同じ場所にいるということはなく、たいていその群落に1匹いるかいないかというところ。

 サイズもオトナのチンアナゴに比べると小さめのものばかりで、オトナサイズの黒い子は観たことがない。

 ゲストをご案内中にこの黒い子をお見せする際には、「日焼けしすぎたチンアナゴ」と紹介することにしている。

 オボロゲな記憶では、一時期チンアナゴとは別の名前を付けられていたこともあったような気がするのだけれど、現在は「チンアナゴ」ということになっているようだ。

 でもこれ、ホントにチンアナゴなんでしょうか?

 この際じっくり両者を見比べてみよう。

 こうして見ると、チンアナゴがただ黒くなっただけ…じゃなくて、なんだか根本的に体の模様が異なっているように見えるんだけど。

 20年以上に渡って「日焼けしすぎたチンアナゴ」とゲストに案内しておいてなにを今さら……ってところながら、どうも気になるその正体。

 そのうちきっと、「ダーウィンが来た!」で解き明かしてくれることだろう…。