水納島の魚たち

チリメンヤッコ

全長 20cm

 数あるヤッコ類のなかで、もっともチョウチョウウオ類に近縁なのが、このチリメンヤッコも属するキンチャクダイ属のヤッコたちだ。

 とはいえ日本国内で見られるこの仲間はほかにキンチャクダイ、アカネキンチャクダイ、キヘリキンチャクダイしかおらず、それらはみな温帯域に適応している。

 つまりチリメンヤッコは、沖縄で見られるこの属唯一の魚なのだ。

 図鑑を見るとチリメンヤッコは普通種なんて書いてあるものもあるけれど、とんでもない、なかなか見られない。

 水納島ではむしろ超のつくレアといっていい。

 彼らの主生息域である内湾性のサンゴ礁という環境は、戦後間もないころまでの沖縄ならいざしらず、猫も杓子も振興振興で開発ばかりしている今の沖縄には、そうそう残されてはいない。

 なので本島でよく潜っていた学生時代の昔から、チリメンヤッコは珍しい魚だと思っていた。

 ところが、シチセンチョウの稿でも触れている海洋博水族館(現・美ら海水族館)のバイトで、渡久地港沖合のパッチリーフあたりを集中的に潜る機会があり、チリメンヤッコがもの凄くたくさんいて驚いた。

 たしかにその場所は河口に近くて内湾ぽい環境だ。

 これほどいるのなら、普通種と書かれるのも無理はない…。

 もっとも、当時のパッチリーフには、現在のようにマグロの養殖イケスなどという、海をあっという間にヘドロ化してしまう施設が無かったから、透明度はすこぶる良かった。

 ところが今や、単なる泥っぽい濁った海と化してしまった渡久地港近辺で、いまだにチリメンヤッコがいるのかどうかは疑わしい。

 水納島は幸か不幸か今のところ内湾性環境ではないので、残念ながらチリメンヤッコはいない。

 写真の子はどうしたわけか1匹だけ迷い込んできたようで、ほんのしばらくの間一カ所に居着いてくれていた。

 過去にも一度だけそういうことがあった。

 2017年終了現在23シーズンを水納島で過ごして、チリメンヤッコを見たのはその2匹だけである。