水納島の魚たち

ヨスジフエダイ

全長 25cm

 根つきの魚なので、いつも同じところで群れていてくれるヨスジフエダイ。

 白い砂地と青い海を背景に群れている様子が、海中でもとてもよく映える。

 20cmを越えるサイズで、しかも華やかな色をしている魚が群れているとなれば、アイキャッチの威力は抜群だ。

 ただ、沖縄をはじめとする暖かな海で潜っておられる回数が多ければ多いほど、ヨスジフエダイは「どこにでもいる」感がつきまとう魚でもある。

 それも、魚影の濃い海外の海で潜れば、10万匹はいようかというとてつもない群れに出会うこともあるほど。

 何万匹もの群れをそれこそゲップが出るほどご覧になってしまえば、わざわざ水納島周辺で数十匹程度の群れを観てもなぁ…というお気持ちもわからなくはない。

 幸か不幸か、そのような巨群をゲップが出るほどには観たことはないので、白い砂地の根で群れているヨスジフエダイは、いつ見ても素敵だ。

 ただしヨスジフエダイの群れといっても、流れの向きや強弱によってそのたたずまいには違いがある。

 流れがなく、ダイバーにとってもノーストレスなポワワ〜ンとしているときには、根の上で浮かんでいるかのように群れている。

 ときには群れの形が縦に長くなることも。

 また、それほど強くはない流れが適度にある場合は、根の上流側に整然と群れている。

 ヨスジフエダイの群れというと、このように横から眺めることのほうが多いのだけど、彼らがのんびりしている時に前から観てみると…

 二十四の瞳どころではない圧倒的な数の視線にさらされるから、やや狼狽してしまう。

 のんびり群れているヨスジフエダイたちでも、流れがさらに強烈になってくると、彼らも流れを避けるためになるべく低いところに定位するため、群れという意味ではまったく見栄えしなくなる。

 なのでヨスジフエダイの群れをじっくり眺めるなら、流れが無いときか、弱い流れのときが最適ということになる。

 とはいえ、カメラを手にしたダイバーに多く見られるように、不用意無造作無遠慮に群れに近づくと、ヨスジフエダイの群れはたちまちばらけてしまい、ただ逃げ惑うだけの群れになってしまう。

 せっかくヨスジフエダイたちがのんびりゆったり整然と群れているのに、そのような接近の仕方は非常にもったいない。

 一方ヨスジフエダイのほうものんびりそうに見えてそうやすやすとは接近を許してはくれないから、ヨスジフエダイたちが整然と群れている姿を撮るのは意外にムツカシイ。

 そぉっと近寄ったつもりでも、それまで全員が一方向を向いていた群れの中に、サッと向きを変えてしまうものが出てくるのだ。

 息をひそめて静かに寄って、全員が同じ方向を向いているように撮れた!…と思っても、

 最前列の子がいきなり反転していたり……

 奥の方でなにげに反対向きになっていたりするのだ。

 常に誰かがそっぽを向いているヨスジフエダイの群れ。

 かくなるうえは、画角を一気に狭くして、周囲にも同じように群れているかのようにするしかない。

 こうすれば整然としたヨスジフエダイの群れ!

 ……と思ったら、先頭にアマミスズメダイの下半身が(涙)。

 このように群れにこだわっていると、なかなか1匹1匹のヨスジフエダイに注目する機会がないけれど、その点数十匹くらいの群れだと1匹1匹にも目を向けやすい。

 そうすると、ヨスジフエダイだけだとばかり思っていた群れの中に、ロクセンフエダイ(下の写真の矢印の先)やキュウセンフエダイが混じっていることに気づくこともある。

 また、ヨスジフエダイ自体にも中には変な子がいて、こういう子が混じっていたりもする。

 前から見るとこんな感じ。

 いったいなにがどうなってこういう事態になってしまったのだろう?

 これじゃ生活にもいろいろと支障をきたすだろうに…と心配していたところ、少なくとも1年間はこの状態で生き続けていることを確認した。

 魚たちってたくましい…。

 そんなたくましいヨスジフエダイでも、根に居ついているヨスジフエダイの群れが、突然姿を消すことがある。

 当店がイエローフィッシュロックと名付けたポイント名の由来は、まさにこのヨスジフエダイたちがたくさん群れている根があったからこそ。

 ところがある年のこと、長年たくさんいたヨスジフエダイたちが全員、忽然と姿を消してしまったのだ。

 それ以来その根には、たまに幼魚たちが群れ集うことはあっても、かつてのようにオトナがたくさん群れるようになったことは一度としてない(でもポイント名はそのままにしています)。

 梅雨時になると、年によっては小さな幼魚が根に集まり始めることもある。

 幼魚たちがオトナになるまでには様々な危機を乗り越えなければならないから、集まったからといってみんながみんな無事にオトナになるわけではない。

 そんな、根に居つき始めたばかりの小さな幼魚のなかに、異様に白い子がいたことがあった。

 どうみてもヨスジフエダイだと思うのだけど、それにしてはあまりにも白い。

 これってひょっとして、パンジャの子?

 どうやらこれは、白い砂底使用の色味らしい。

 それなりに大きくなれば群れが目立つヨスジフエダイも、チビのうちは目立たないに越したことはないということなのだろう。

 今春(2022年)、そんなヨスジフエダイ・チビターレの人生最小記録と出会った。

 砂地のポイントの水深30mほどにある根でのことで、この根につき始めたばかり、そして色づき始めたばかりらしい。

 せいぜい2cmほどの極小サイズもさることながら、薄幸を絵に描いたような薄々の色柄がなんとももののあわれを感じさせる。

 でもその2週間後には…

 けっこう成長していた。

 従来ならこれがミニマムサイズだったけれど、なにしろ2週間前があまりにも儚く小さな透明系だったから、これくらいでさえむしろ大きく見えてしまう。

 ここには同じサイズのチビが4〜5匹いて、キンセンイシモチに混じって地味に暮らしていた。

 まだまだ目立つわけにはいかないサイズということなのだろう。