アカジンの刺身

 海の幸といえば、一般的に北の国のほうがツワモノ揃いと思われている。
 たしかに北の海は水温が低く、魚たちの身は絞まり、かつ脂がほどよくのってでっぷりとしたボリュームがあるのだろう。

 けれど沖縄の海の幸だって負けてはいない。
 現地でたべてこそ…的なものもあるにはあるけれど、南国の海の幸代表選手として、北の幸と堂々と渡り合える強豪選手もいるのだ。

 そのひとつが、このアカジンである。
 水揚げするとその肉厚のボディが赤く輝く。それは夜の海中でも同じで、岩陰に潜む彼らの体は、辺りを照らしているかのごとく赤く輝いているためにこの名があるのだろう。
 本名をスジアラというこの魚、アラやクエという魚が全国どこでも高級美味魚であるように、このスジアラ=アカジンも沖縄県では超高級魚だ。居酒屋で意を決して頼んでも出てくるのはほんの数切れ、それ以上の量になったら生ビールをいったい何杯飲めるだろうかというほどになってしまう。

 その白身はプリリとして脂が乗り、かつあっさりさわやか。それでいて芳醇な味わいが全味覚を包み込む。人によっては皮付きを好まない人もいるけれど、このあたりの魚には、その皮と身の内側の味がまた捨て難いものがあるので、うちではもっぱら皮付きにして食べている。
 その実力は、クロワッサンのドレヤンの一人、アカザキをして、

 「人生でこんなに美味い刺身を食ったことはない……」

 そう言わしめたほどだ。
 まぁ彼がその20年余の半生で出会った刺身などたかが知れているのかもしれないけれど、若者をしてそこまで感動させ得るほどの美味い魚なのである。

 そんな高級魚なので、水産資源としてももちろん相当な価値がある。かつては当然のように乱獲され、やがて数を減らした。
 そこで、では数を増やしましょうということで、水産試験場あたりがこのアカジンの稚魚をたくさん放流するようになった。
 が。
 このアカジン、成長すればメーター級になる大魚である。サメなどの大型肉食魚を別にすれば、沖縄近海の海底で食物連鎖の頂点に君臨しているといってもいい。
 そんな頂点だけを無闇に増やそうとすればどうなるか。
 アカジンが減ったせいでバランスが崩れ、小魚たちが増えすぎている、ということならまだしも、度重なる環境の悪化で小魚だってその数をどんどん減らしているところに、肉食魚の頂点がドドンと増えたら………。

 水産資源としては貴重かもしれないけれど、我々ダイバーが大事にしたい「観光資源」を駆逐してしまう害魚でもあるのだ。

 というわけで!!
 このアカジンゲットは、我々の海を守るための害魚駆除なのである。ハッハッハ。

 世のため人のために駆除した魚がこんなに美味しいなんて。アカジンも、バラハタのようにシガテラ毒を有していれば、こんな目に遭わずに済んだろうになぁ……。

 獲ったどーッ!!

正義の名の下に繰り広げられる殺戮により、
アカジンはまたその命を落とすのだった……。

 


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