写真・文/植田正恵

111.ゴーヤーチャンプルーへの道
月刊アクアネット2012年8月号

 

 30年前ならいざ知らず、今の世の中でゴーヤーを知らないという日本人は極めて少数派になっている。
 しかも驚くべきことに、毎年猛暑に苛まれる近年の本土では、すでに朝顔に代わるグリーンカーテンとしても重宝されているという。

 もちろんゴーヤーは野菜だ。
 日差しが強すぎる夏の沖縄で育つ数少ない夏野菜のひとつで、沖縄県内各家庭では夏に最も普通に食べられている食材のひとつといっていい。

 ゴーヤーを使った代表的な料理は、なんいってもとゴーヤーチャンプルーである。
 チャンプルーとはご存知のとおり様々な具材が混ざった炒め物(テキトーな料理ともいう)で、ゴーヤーがメインになったものがゴーヤーチャンプルーだ。

 今でこそ沖縄旅行者で知らぬ人とてないメジャーな料理ながら、2〜30年前の本土の人々にとって沖縄で初めて味わうそれは、衝撃的印象派の食べ物だった。

 そう、ゴーヤーはとってもニガイ。
 学生時代に初めてこの料理をいただいた我がだんなは、およそ人間の食べるものではないと思ったのだそうだ。かくいう私も、学生時代は食べはしてもけっして美味しいものとは思わなかった。

 ところが卒業して都内で働くようになったある日、新宿の沖縄料理屋で食べたゴーヤーチャンプルーは、私の頬という頬を落としまくり、目から何十枚もウロコを落とすほどのメチャウマ料理だった。
 ゴーヤーチャンプルーって美味しいじゃないか!

 おかげで水納島に越してきた頃はすでにゴーヤーに開眼していた。そしてゴーヤーとは、大きな台風が来て畑がダメになってしまわないかぎり、5月〜10月の間に島でイヤと言うほど採れることも分かった。ちょっとした土地に1本の苗があるだけで、夫婦2人で毎日ゴーヤーチャンプルーを食べられるほどの勢いである。

 ということは、夏の沖縄の田舎の家庭では、イヤと言うほどじゃなくてホントにイヤと言いながらゴーヤーチャンプルーを食べているのかもしれない。
 だからなのか、これほど沖縄旅行者に人気のゴーヤーであるにもかかわらず、「ゴーヤーチャンプルー大好き♪」という地元沖縄の若い人に出会ったことはない。

 もっとも、一口にゴーヤーチャンプルーといっても、各家庭、各店、各宿で微妙に味付けや具材の選び方、調理の方法が異なるのが面白い。
 ゴーヤーの苦味が大好きな人ほど、火はあまり通さず、卵や豆腐やその他の野菜を混ぜないものを好むようだ。嫌いと言っている人も、ひょっとすると違う調理方法になると美味しく食べられるかもしれない。

 地元の人でさえ好き嫌いが別れるくらいだから、一昔前の島の民宿では、ただの家庭料理をお客様に出すなどとんでもないという配慮もあって、ゴーヤーチャンプルーをお客さんに振舞うなんてことはありえなかった。
 ところが今では、宿の食事にフツーにゴーヤーチャンプルーが並ぶようになっている。そして地元の料理を嗜好する旅行者は、それをとても喜んでいる。衝撃的印象派の食べ物だった昔話を思えば、隔世の感とはこのことだ。

 家庭の数だけ種類があるといっていいゴーヤーチャンプルー。沖縄の各民宿や食堂でそれぞれの味を楽しむもよし、いろんな作り方を試して自分に合った味に出会うもよし。
 ゴーヤーのさらなる奥深い世界が広がっていくことだろう。