写真・文/植田正恵

120.島の出荷作業
月刊アクアネット2013年5月号

 

 島のおじいたちが元気だった頃は一緒に飲む機会がたびたびあって、よく昔の話を聞かせてもらった。
 現在でも水納島で生活していると驚いてしまうことばかりだというのに、おじいたちの話はそのまた上をいく内容ばかりで、何度同じような話を聞いてもまったく飽きることがなかった。

 そんな昔話の一つに、サバニ(沖縄の伝統的小型丸木舟)によるスイカの出荷がある。

 おじいたちが若かりし頃、定期船はおろか桟橋すらなかったこの島では、砂浜につけたサバニに水納島名産のスイカを載せて海を渡り、遥か遠い本島まで売りに行っていたというのだ。
 高速船なら
15分とはいえ、かつての連絡船ですら30分要していた距離を、手漕ぎのサバニにスイカをたくさん載せて行くなんて、想像するだけでも絶望的な冒険だ。

 その不便さを昔話として笑い飛ばせるかというと、実はそうでもない。
 もちろんいろいろと便利になってはいるものの、水納島では農作物を出荷するに際し、今もなお他の地域よりもひと手間もふた手間も余分にかかるのだ。

 野菜や果物であれば、出荷用に箱詰めしたものを何ケースもトラックに載せて桟橋まで運び、それを自分で連絡船に載せなければならない。
 これが大根ともなると一箱
30キロくらいあるから、船に乗せるだけでものすごい筋トレになってしまう。本島地域や大きな離島と比べ、この手間のかかりようときたら…。

 しかも当然ながら、連絡船が時化のために欠航してしまうと出荷できないのである。
 そのためせっかく収穫したのに出荷できずに傷んでしまう…なんて無駄にならないよう、収穫は天気予報を見極めなければならないのだ。

 野菜の出荷に比べれば小商いも小商いながら、我々は自分たちで作った雑貨を通信販売している。
 島内には宅急便の集荷場はおろか宅配委託可能な商店も郵便局もないので、平日に限り島に来てくれる郵便局スタッフだけが頼みの綱だ。
 幸いナマモノではないから、お客様さえ心得てくださっていれば、連絡船の欠航のため数日遅れることになっても問題はない。

 とはいえ都会にお住まいの方々にとって、ましてやなんでも翌日には届く勢いのアマゾンが当たり前の世の中のこと、気象により商品の発送ができない、なんてことはなかなか事前に念頭に置いてはいただけない。
 そのため時には台風の真っ最中にもかかわらず、2日後の配達を希望する注文が届いたりすることもある(ありがたいことですけどね)。

 出荷ひとつとっても営業上不利なこと、大変なことがたくさんあるのが離島だ。ただしそのおかげで、物流についていろいろ理解できるようになったのも事実である。

 「全国どこへでもお届けします!」とか「送料無料!」 などと大々的に謳っている通販サイトの最下段に、小さな文字で

 「※一部離島地域は除きます」

 とあっても、「やっぱりね♪」なんて余裕で眺められるようになってきた。

 ことほどさようにいろいろと不便とはいいながらも、連絡船のデッキにたくさんの野菜が載っている風景は、まさに「出荷してます!」という感じでおもしろい。
 たまたま出荷の場面に居合わせた観光客にとっても、きっと旅の思い出のワンシーンになることだろう。

 いつの日かこの出荷方法が、サバニ時代に匹敵する衝撃的な不便さに思える日が来るのかもしれないけれど、今はまだ、失いたくない島の風景の一つだとも思っている。