写真・文/植田正恵

121.3少年漂流記
月刊アクアネット2013年6月号

 

 島の恒例行事のひとつ、水納小中学校職員の送別会でのことだった。
 島に来たはいいけど途方に暮れている人たちがいるので、送別会用に用意されている食べ物を分けてあげてもいいか、という話が宴席の片隅でなされていた。
 はて、どういうこと??

 その途方に暮れている人たちとは、なんとこの春県内の高校を卒業したばかりの少年たちだった。卒業を記念して手漕ぎボートで本島から海に漕ぎ出でたのだという。

 車の免許を取って初ドライブとか、どこかに一泊旅行とかならともかく、今どき卒業記念にこんな冒険を思いつく子がいたとはオドロキだ。
 島に渡って休憩してから帰路につく、というのが彼らの大雑把な計画だったようだけど、この日の風は強く波も高く、エンジン付きの小型船ですらスムーズに航行できないほどだというのに、小さな小さな手漕ぎボートで予定どおりに事が運ぶはずはなかった。

 彼らが気づいたときには時すでに遅く、どんどん流されるままにほうほうの態で水納島にたどり着いたという。
 辿り着いたはいいけれど、連絡船はすでに最終便が終わっているし、所持金は3人合わせて
300円ほど。明朝にならなければ帰れないのはやむをえないにしろ、腹が減ったし野宿ではまだ寒い季節だし……

 ……ってことで、3少年は島の民宿にすがりついたわけだ。
 普通に考えれば、すがりつかれた民宿もいい迷惑というところ。しかも急に食事と言われても、他にゲストがいないオフシーズンのこの時期に、商店も何もないこの島で食材をいきなり用意できるはずもなし。
 そこで送別会の食べものを分けてあげよう、ということになったのである。

 今どき珍しい3少年のアドベンチャー精神、そして転覆しても風に流されても死なずに済んだという意外な生命力に驚くとともに、こんな愚かと同義語といっていい無謀なチャレンジャーにさえ、さも当然のように食事を準備してあげる島の人々にあらためて感動した。
 しかも宿の部屋を無料で提供してあげたうえに、途中一度転覆してずぶ濡れになっていた少年たちの衣服の乾燥まで面倒を見てあげたそうだ。

 なんて優しいんだ島の人たち!

 送別会には島民のほとんどが一堂に会していたこともあって、この3少年漂流事件はたちどころに全員が知るところとなった。
 もちろん少年たちの無謀を非難する声がもっぱらだったけれど、そのわりにはなんだか3少年の勇気を称えている風もある。今はいい齢の島の人たちも、今考えるととんでもなく危ない遊びを子供の頃にやって、大人たちからこっぴどく叱られたことがあるからのようだ。
 人はみな、経験値を積み重ねて分別ある大人になっていくということなのだろう。

 明朝、連絡船で島を去る少年たちに、だんなが「君たちのことはもう島民全員が知ってるよ」と、彼らの無謀さを揶揄する意味で言うと、彼らは陽気に

 「俺たち、有名人?」

 なんて言って喜んでいた。
 少なくとも、あわや生命を失うところだったという危機感は微塵もなさそうだ。

 明日を生き抜くための「経験値」を彼らが得るという意味では、島の人たちの優しさはかえって仇となったのだろうか……?