写真・文/植田正恵

13.ダイビングは一人旅
月刊アクアネット2004年6月号

 「一人旅」というと皆さんはどんなイメージをお持ちだろうか。あまり一人旅をおやりにはならない方なら、自分探し、傷心旅行といった内向きのイメージを抱くかもしれない。 
 私が生業としているダイビングといえば、なんだかワイワイガヤガヤと大勢で楽しむもの、というイメージが世間にはあるかもしれないけれど、意外にダイバーは「一人旅は当たり前」という認識をもっている。休暇、目的地、ダイビング自体の目的などなどを参加者間で調整するくらいなら、一人のほうが身軽で気軽なのである。また、たとえ一人で旅行はしても、現地では共通の話題を持った人たちがたくさんいることが多いので、一人でも孤独になることはあまりない。

 水納島に越してきた頃は、我がクロワッサンアイランドのゲストは今より遥かに少なくヒマだったので、民宿が混んでいるときには民宿でバーベキューなど食事のお手伝いをしていた。週末あるいは夏休みともなると県内のいろんな団体が来ることが多く、県内客の海辺の民宿での食事といえばバーベキューと相場は決まっているので、当時おじいとおばあだけでやっていたその宿では、大人数のときには助っ人が必要だったのだ。
 そうやって民宿が大勢でにぎわう一方、ダイビング目的でたまにお越しくださるうちのゲストといえば、女性がポツンと一人とか……。前述のとおり、島に来る宿泊客といえば複数もしくは団体というのが当たり前の頃である。その日来島するゲストが女性一人である旨を宿のおばあに告げると、おばあはしばらく考え込んでから言った。
 「………この人、大丈夫かねぇ?」
 妙齢の女性が一人で数泊……。傷心旅行ではないかとおばあは心配したのである。ダイビングをする人は一人旅が多いよ、と説明しても今ひとつ納得していない様子で、おばあはそのお客さんが来てからも、ひょっとして自殺でもしやしないかとずっと心配していた。

 実際のところ、ダイビングは20年前なら限られた人しかできないスポーツだったかもしれない。けれども現在では、比較的気軽に、誰でもできるレジャーになりつつある。それとともに、仕事に疲れた体と心を癒すための手段のひとつにもなっている。海中世界は癒しワールドとして認識されているのだ。
 そうなるとさらに一人旅のゲストが増えていくのは当然。世代も出身地も住まいも違い、職業もそれぞれ異なる人々が、たまたま日程が重なったがために一緒にダイビングをして、色々な話題で盛り上がることもある。一人旅とはいえ、思いもよらぬほど現地で居心地の良さを味わうこともザラだ。タヒチの水上コテージに一人寝…というのはいささか寂しいが、その点水納島なら一人でたそがれるも良し、出会った人々と楽しく過ごすも良し。
 そうやって一人旅の方ばかり増え、毎回毎回宿のおばあはハラハラドキドキしているのかというと、さすがに今ではおばあもまったく心配しなくなった。それどころか、しばらくぶりに訪れた若い女性に対し、平気で軽口を言うようになっている。
 「とっても太ったねぇ!」と…。
 かつては傷心旅行なのではないかと心配していたはずなのに、今ではその一言で傷心してしまいそうなジョークをかっ飛ばすおばあなのだった。