写真・文/植田正恵

132.クロワッサンの星 −前編−
月刊アクアネット2014年5月号

 

 ピンポン玉サイズの体につぶらな瞳、ワタワタと動く4本の脚。

 特段生き物に興味がない人であっても、思わずかわいい!と言わずにはいられないリクガメの子供。とりわけ模様が美しいホシガメは、かなり人気が高い種類だ。

 我が家でホシガメを飼うようになったのは、とある業者から飼育を委託されたのがきっかけだった。
 
11年前のことである。
 ペットショップでかなり高価で売られているホシガメを、「委託」とはいえ事実上譲り受けることができるなんて、子供の頃から生き物を飼うのが大好きだった私にとっては願ってもない話。二つ返事で引き受けたのはいうまでもない。

 ホシガメたちは東京から航空貨物としてやってきた。
 件の業者さんのもとでしばらく飼育されていたということだから、さすがにピンポン玉サイズの子供ではなくとも、せいぜいタワシほどの可愛いサイズなのかと思いきや、片手でつかみあげることがかろうじてできる大きさに育った立派なオトナだった。

 そんな巨大なリクガメが、1匹ごとの個室が設けられた木箱の中に10匹も!!

 空港で木箱を開けた私もかなり驚いたけど、品名に「カメ」とだけ書かれた貨物を引き渡してくれた空港職員の方々には衝撃が走っていた…。

 飼育書やインターネットで調べてみると、元々が熱帯地方の生き物なので、本土ではもっぱら室内飼いが当たり前のようだ。
 沖縄でも幼体は室内で飼う必要があるものの、成体であれば室外でも大丈夫だろう…という話を信じ、当時は広かった庭に飼育スペースを設けた。

 柵で囲った飼育スペースの中にはカメたちの寝場所となる小屋を作り、夜間用の保温ライトを設置。小屋の外の「広場」には、日中の日除け用にトンネル状の構造物も作った。
 まさに庭付き一戸建て状態だ。

 ホシガメはリクガメのなかでは神経質なほうだと聞いていたので、飼い始めてからしばらくはかなり気を遣った。
 野菜を細かく切ったり、茹でたりしたものを与えていたし、排泄を促す作用がある温水浴もやっていたものである。

 ところが飼い続けているうちに、なにもそこまでやらずとも、彼らはフツーに元気に暮らしていけることがわかってきた。
 それどころか、台風のために柵が壊れて逃げ出してしまったものなど、
1年以上過ぎて無事発見されて戻ってくると、かえって島で逃亡生活を続けていたほうがよっぽど健康なんじゃなかろうか、というほどにツヤツヤになっていたほどだ。

 そんなこんなで数年ほどたち、ホシガメたちの飼育に関してはおりおりの「逃亡」以外に何の問題もなくなっていた冬のある日、メスが半日かけて後ろ脚で土を掘りおこし、そこにピンポン玉サイズの卵を6個ほど産み落とした。

 亜熱帯の沖縄とはいえ、野生下の環境と比べれば気温が低すぎるので、そのまま放置すればその卵が孵ることはない。
 そこで、間に合わせの材料で孵卵器を作り、産卵直後に土中から取り上げた卵を入れてみた。

 高温多湿環境が維持された中で順調に発生が進めば、早くて3ヵ月後には孵化するという。
 はたして卵は受精卵なのだろうか。手作り孵卵器はちゃんと機能するのだろうか。そして、忘れっぽい私が3ヶ月もの間、孵卵器に卵を入れたことを覚えていられるだろうか。

 様々な不安材料を抱えつつ、ピンポン玉のような卵は孵卵器の中で静かに眠り続けるのだった。     

                   (後編につづく)