写真・文/植田正恵

141.ドクターヘリ「MESH」
月刊アクアネット2015年2月号

 

 訪れる人とてない真冬の水納島。それがあとふた月もすると観光シーズンになって、多くのお客様が様々な形で島にやって来るようになる。

 そんなシーズン前のこの時期に頭をよぎるのは、今年も事故なく終えられるか、ということ。南の島できれいな海を楽しもうというお客さんにとって、怪我や事故なんてものは、楽しいはずの旅行を台無しにしてしまう最たるものといっていい。しかも水納島は診療所すらない僻地だから、なんてことのない事故や怪我が文字通り命取りになる危険性もある。

 去年の夏、午後のダイビングの準備をしに桟橋まで行くと、繋留してあるボートの上に尋常ではない砂利や砂が溜まっていて驚いたことがあった。突風でも吹いたのだろうか。

 それはヘリコプターが巻き起こすダウンウォッシュのなせるワザだった。お昼時にドクターヘリが水納島の桟橋に着陸していたのだ。聞けば、猛毒を持つオニダルマオコゼを波打ち際で踏んでしまった親子の救急搬送のためだという。たかが魚の毒と侮るなかれ。刺された場所や体質によっては、ヒトですら生命の危険があるくらいの猛毒なのである。 

 

 応急処置の仕方によって症状に軽重はあるとはいえ、15年くらい前なら患者がどんなに痛みを訴えようとも、連絡船やプレジャーボートで本島まで搬送するしかなかった。

 それが今では電話一本で、ドクターヘリが名護にあるヘリポートから約6分で島に降り立つことができるようになっているのだ。水納島のような無医の離島では、たとえ夜間の飛行はできないといえども非常に頼もしい。

 この沖縄本島北部地域のドクターヘリシステムは、正式名称をMESH(Medical Evacuation Service with Helicopter=メッシュ)サポートという。

 もともとは沖縄本島北部地域の救急医療システム改善のため、北部にある一病院が運営に乗りだしたものの、運営資金が安定しないために一度休止する事態に追い込まれた。

 その後各自治体からの財政的支援などを受けてNPO法人メッシュサポートという組織を立ち上げ、現在は運営資金のかなりの部分を寄付金でまかないながら、ギリギリ存続させている状態だという。

 199をコールすれば救急車が来てくれる地域にお住まいの方々にとっては、ヘリコプターで救急搬送なんていうと贅沢このうえないシステムに思えるかもしれない。
 しかし水納島のように無医地域であったり、たとえ陸路があったとしても「救急」の用をなさないくらいの僻地の場合、それ以外に頼るものが無いというケースも多々あるのだ。

 実際、MESHサポートだけで年間に250回も出動しているという。そのどれもが僻地医療の問題を抱えている地域で、ヘリコプターのおかげで救われた命も少なからずあろうことは想像に難くない。 

 にもかかわらずその運営状況は、運営組織自身の救命処置が必要なほどに息も絶え絶え。
 無駄に立派な道路や誰も使わない市民体育館などではなく、こういったシステムにこそ税金をたくさん使っていただきたいと思うのは、僻地に住む者だけだろうか。


 現東京都知事が厚生労働大臣だった頃、MESHサポートへの財政的な支援を、法整備も含めて国として前向きに検討する、というような話を、ジャスコ名護店にて県民相手に話していたそうだけど……

 …その後どうなったんだろう?