写真・文/植田正恵

143.ウチナータイム
月刊アクアネット2015年4月号

 子供の頃、授業参観や運動会、その他学校での催しを親に知らせる際は、先生から託された案内文を家に持ち帰って親に見せる、という方法がもっぱらだった。
 もちろん保護者以外には、そういう案内が配られることはなかったと思われる。

 ところが島民人口が40名にも満たない水納島では、地域住民すべてが小中学校のPTA会員になっているため、学校関係の案内はもっぱら教頭先生が島内各家庭を廻って配ってくれる。その案内文は、伝統的に「公文(こうぶん)」と呼ばれている。

 なにやら国家がかかわる文書のような重みのある大層な名称ながら、たいていはA4サイズのコピー用紙に行事・集会の日時や集合時間が時候の挨拶とともに記されているもので、学校主催の案内だから校長先生の名が発行責任者として記されている。

 何かと学校行事が多いこの季節、その公文が配られる機会も多い。
 面白いことに、着任当初は遅くとも一週間前には案内を、と気合いが入っていた先生も、赴任2年目3年目ともなると、案内を配らずともおおよそのことをみんなすでに知っているということがわかってくるからだろう、行事の2日前くらいにご案内、なんてこともザラになる。

 そんな公文には前述のとおり当日の開催時刻や集合時間が明記されているから、わざわざ案内を配っていただいたその手間に報いるためにも、わたしは可能な限り、記載されてある予定時刻の数分前に学校に到着することにしている。

 すると当然のように他に島民の姿はなく、最初からいる学校関係者を除くと私はたいてい1番乗りになってしまうのだ。
 挙句の果てには、時刻を明記して案内をしてくれている先生方が、真顔で「正恵さんって、いつも時間どおりに来ますよね…」とおっしゃる始末。

 沖縄方言では、「沖縄」のことをウチナーという。そして、沖縄独特のモノや文化、風習などをこの「ウチナー」を冠して呼ぶことが多く、沖縄方言は「ウチナーグチ」というほうがしっくりくるし、沖縄県民も「ウチナーンチュ」といえば、先祖代々から県民であることがわかる。
 そんなウチナーを冠した言葉に、「ウチナータイム」というものもある。

 直訳すれば沖縄時間。本土とはいささか異なる県民の時間感覚のことだ。
 午後7時からと通知されていた飲み会が8時になってようやく始まることはザラだし、待ち合わせに
30分遅刻するのも日常茶飯事、5分前行動って何語??くらいの世界である。

 だからといってこんなことでいちいち目くじらを立てているようでは、沖縄で暮らしてはいけない。
 学生時代に初めて味わったときは衝撃的ですらあったけれど、それから約
30年経っても基本的に変わらぬこのゆるさ。
 みんな集まったからそろそろ始めますか…という感覚は、慣れるととても居心地がいいものだ。
 「公文」という固い名称の案内文が暖かな雰囲気に包まれているような気がするのは、この心地よい時間感覚のおかげに違いない。


 もっとも水納島の場合、それらはもちろん「仕事抜き」の場合に限られる。
 連絡船は毎日キチンと定刻に運航しているし、学校で子供たちに遅刻が許されているわけでもなければ、民宿の食事の時間が事前の案内と大幅に変わるなんてこともない。


 子供たちもそのあたりの「メリハリ」を肌で感じているはずだから、きっと「社会に通用するウチナータイム」を学んでくれていることだろう