写真・文/植田正恵

148.雨に濡れても
月刊アクアネット2015年9月号

 沖縄本島で過ごしていた大学生の頃、本降りのなか傘も差さずに歩いている高校生たちを初めて見たときはびっくりしたものだった。

 滝行をしているわけでも、恋破れて絶望の淵を歩いているわけでもなく、ただ「雨が降ってますが、それがなにか?」的に、ずぶ濡れになっても意に介さずフツーに歩いているのだ。

 どうやらそれは今でもあまり変わっていないようで、先日雨の日に本島に出かけた際にも、雨中を7割ぐらいの子が雨に打たれながら平然と歩いていた。
 ただし、雨がもっと激しい場合は親が校門まで子供を車で送り届ける、というのも沖縄でフツーに見られる光景である。限度を超えた場合の対処法もちゃんとあるというわけだ。

 私が子供の頃は、雨予報を見た親が傘を持たせてくれたものだし、長じて後は折り畳み傘を用意するのがフツーだった。
 もちろんそれは天気予報へのゆるい信頼があってこそ。
 ところが沖縄では、ただでさえ確度不安定な天気予報は当日の予報すら当たらないことが多い。
 1日中の雨を予報していたにもかかわらず、結果は真逆の太陽燦々ドピーカンであったりすることもしばしばだ。

 そういう天気予報で傘をいちいち用意していたら、学校の傘立ては忘れ物の傘だらけになってしまうに違いない。亜熱帯地方で生きる人々にとって、雨に打たれながら歩く子供時代というのは、学校に忘れ物をしないための知恵なのかもしれない。

 雨に打たれて歩く経験をほとんどの方がしているからだろうか、台風で強風が吹いている時に傘をさして街を歩く沖縄県民はまずいない。
 強烈な風の下では傘程度で横殴りの雨を凌げるはずはなく、風で飛ばされた傘が下手をすると凶器に変わることもあるからだ。

 那覇市内の台風状況を伝えるニュース映像でよく見られるような、さしている傘が強風のために裏返しになって困っている人たちは、ほぼ観光客と思って間違いない。

 だからといって、台風となれば誰も彼も出歩かなくなるわけでもない。
 水納島のように風を遮るものが何もない小さな島ではありえないけれど、那覇あたりの都会では、台風のさなかに最もにぎわう場所がある。居酒屋だ。
 屋外で何もできない夜は飲み明かそうということだろうか。夜更けともなるとシメの沖縄そば屋も大いににぎわう。

 とある半露店の24時間営業沖縄そば屋では、カウンター席の雨にあたる部分を避けた客が一部に偏りながらそばをすすっている暴風域真っ只中の午前2時、なんてこともフツーにある。
 厨房でそばを茹でている大きな鍋の下では、暴風に煽られたコンロの焔が激しいダンスを踊っている。台風など文字どおりどこ吹く風といったところなのだろう。

 ことほどさように雨が降っても風が吹いてもその時その時でキチンと対応し、楽しむ時は楽しむ沖縄県民ながら、話がレジャーとなるとその対応は観光地泣かせでもある。

 随分早い時期から民宿に予約を入れていた20人くらいの県民の団体客が、ひとたび雨が降ると

 「天気が悪いからやめとこうねぇ(キャンセルします)」

 と、潔くも淡泊にとてつもないドタキャンをすることもザラにあるのだ。

 素早い決断はお見事と思いつつも、受け入れ側としては、「雨に打たれても平気だった昔を思い出して!!」とお願いしたくもなるのであった。