写真・文/植田正恵

157.便利な○斤袋
月刊アクアネット2016年6月号

 「正恵さん、3斤袋取ってきて」。

 水納島に越して着たばかりの頃、島の行事で食事の準備をしているときにそう頼まれた。
 お安い御用ではあるけれど……

 3斤袋っていったい何?

 そもそも“斤”なんて単位は、食パンを買うときぐらいしか使ったことがなかった。
 食パンでいう1斤はだいたい
350gから400gを指し、その他のものでは600gの重さが1斤だそうな。
 ただし現在では、食パン以外ではほぼ使われなくなっている単位のはずなのに。

 そういえば。
 沖縄本島で暮らしていた学生時代、アパートの近くにあったローカルなスーパーのお肉コーナーを思い出した。
 各種肉類がてんこ盛りになっている大きなバットの脇にトングとビニール袋が置いてあって、そこに1斤○○○円、という表示があったっけ。

 当時の沖縄では、暮らしの中で斤という単位がまだフツーに現役だったのだ。
 少なくともそれ以前に埼玉の実家付近のスーパーでは見たこともなかったので、カルチャーショックに近いオドロキを覚えた記憶がある。

 水納島では学校行事や法事、お祝いなど、島中の人が集まって飲食する機会が多い。
 その場合、料理が足りなくなることのないように、主催者はかなり多めに準備しておく。そのため宴が終了しても半端ない量の食べ物が残ることが多く、とにかく量が多いために本来の持ち主である主催者だけではとてもこのあと消費しきれない、ということがままある。

 そういう場合は各家庭に均等に、お持ち帰りの準備がなされる。そこで必要になるのが、冒頭の3斤袋なのだ。

 言ってみればただのビニール袋なんだけど、容量の単位が斤になっていて、半斤、1斤、3斤、5斤など各サイズがある。
 魚のから揚げ、おにぎり、てんぷらなど入れやすいものは、その量に応じてこのビニール袋に入れ、口をキュッとしばったら、「はいどうぞお土産です!」となるわけだ。


 島に越してくるまでは、そういった料理の受け渡しにはタッパーとか皿に乗せてラップをするぐらいしか経験がなかったので、当初はやはりなかなかに新鮮、というか、正直なんだか美味しそうじゃなくなるな…と思ったものだった。
 骨など尖ったもの硬いものが入っていなければ、煮物汁物でさえビニール袋なものだから、モノによってはパッと見まったく別のモノに見えなくなることも………。

 …と思っていたのは最初の数年で、慣れてしまえば自分たちがいただく分には見てくれなどまったく関係ないし、その場で大人数にテキパキと分けなければならないときなど、○斤袋は大変便利である、という認識に変わってきた。
 タッパーや皿のように、返却することを考えなくてもいいから、頂戴する側としてもあとあとの手間が無い。

 さすがに現在では沖縄のスーパーでもお肉はグラム単位での売買になっているけれど、この斤単位表示のビニール袋が廃れる気配はまったくない。
 きっと斤のほうがどのくらいの量なのかパッとイメージしやすく、何斤袋が必要か瞬時に判断できるのだろう。

 かくいう私も最近では、魚のから揚げを5個ずつ分けようと決まれば、では3斤袋あたりを用意しましょう、というように見当がつくようになっている。
 島に越してきてまだ日が浅い若奥さんがビニール袋の使い勝手に戸惑っている前で、かつての自分を思い出しつつ、ちょっぴり優越感(?)に浸っているのだった。