写真・文/植田正恵

161.ハロウィーン


月刊アクアネット2016年10月号

 10月末の夕刻、「トリック・オア・トリート!」の声が庭から聞こえてくる。

 玄関に出ると、魔女やかぼちゃのお化けなどに仮装した島の子供たちが待ち受けていて、先生がたも仮装してつきそっているから、庭先に仮装した人々がズラリと勢揃いすることになる。

 10年くらい前から水納小中学校の恒例行事になっている、ハロウィーンパーティだ。

 クリスマスであれバレンタインデーであれ、商戦に結びつかせるための舶来のイベントが次々に日本に定着しているように、いつの間にか日本で確固たる市民権を得ているハロウィーン。

 近頃ではいい若者がいささかやり過ぎのバカ騒ぎをする日になってしまいつつあるようだけど、そもそもは子供たちのためのイベントということもあってか、日本でも当初は学校行事のひとつとして静かに浸透し始めたのかもしれない。

 水納島の場合は、「アメリカで行われているハロウィーンをやろう」と、10年ほど前にある先生が企画したのが始まりだ。

 最初の年には、たしか「外国の文化を、楽しみながら理解しましょう」といった大義名分が記されたお知らせが各家庭に配られたように記憶している。
 そしてそこには
「夕刻に、生徒と教職員が仮装をして各家庭を回り、『トリック・オア・トリート』と声をかけるので、できれば形式にのっとって『ハッピーハロウィーン!』と答えて、子供たちにお菓子を渡してやってください。もちろん強制ではありません。」という協力のお願いが記されていた。

 当時でさえそういう説明が必要だったくらいだから、私が子供の頃なんていったら生活圏内にハロウィーンのハの字もなかった。
 ところが今ではなんとも気の早いことに、
8月末頃からホームセンターやスーパーに特設コーナーが設けられているし、10月ともなればかなりのスペースをハロウィーン関連グッズが占めるようになっている。

 そんな商魂がエスカレートするためか、若者たちが変に勘違いした盛り上がり方をするあまり、ハロウィーンがどんどん妙な方向へ過熱しているという話も耳にする。
 一方、水納小中学校の恒例行事ハロウィーンは、このところ「毎年やってるようなのでとりあえず今年もやります」感満載で、特に予算を割いて衣装に凝るわけでもなし、
10年来の使い回し品を利用している程度の「仮装」にとどまり、傍から見ていても児童生徒はちょっと飽きているといった雰囲気が近年は漂っていた。

 一週間くらい前に日程が決まるハロウィーンに合わせ、商店ひとつない島で各家庭がお菓子を準備するのも何かと大変なんだから、そんなことならいっそのことやめちゃえばいいのに…と思わなくもない。

 ところが。
 ハロウィーンの最中に大雨が降ってきて、大急ぎで各家庭を回ったがために、何軒かスルーして終了してしまうことになった一昨年のこと。
 翌日、そのときスルーされた家の方が、「せっかくお菓子を準備していたのに!」とジョーク混じりに憤慨してみせていたのが驚きだった。
 どうやら皆さん、なにげに楽しみにしているようなのだ。

 かくいう私自身もここ数年は、子供たち一人一人の好みにあわせ、オリジナルお菓子詰め合わせセットを準備するのが結構楽しくなってきている。
 巷では変な盛り上がりを見せているハロウィーンだけれど、水納島では子供たちが島の人たちとほのぼのと交流しつつ、1年で最もお菓子持ちになれる日、として定着しているのであった。