写真・文/植田正恵

163.ヨット座礁事件


月刊アクアネット2016年12月号

 ある秋の日の早朝、島の海水浴場にヨットが座礁していた。

 30フィート弱のヨットで、沖縄本島から本土を目指す夜間航海の途上、折悪しく夜半過ぎから時化に遭い、難を逃れるべく水納島の桟橋を目指したところ、あえなくビーチに座礁してしまったようだ。

 船長から通報を受けた海上保安庁は、夜明け前には島に駆けつけ、ヨットがこれ以上動かないよう四方八方にロープを張り巡らせていた。

 そのあとヨットをどうにかしてくれるのかと思いきや、船長の無事を確認したのちに事情聴取を済ませた保安庁職員は、沖合に待つ母船のもとへサッサと帰ってしまった。
 潮が引いているため、波打ち際近くで船底が底について斜めになっている状態のヨットは、潮が満ちないことにはどうしようもなかったのだ。

 で、ようやく潮が満ちたのは午後5時前。
 満潮になれば保安庁のハイテク装置でさっそくヨットの移動作業が始まるのかと思いきや、沖合に浮かんでいた保安庁の母船は、日没前にとっとと母港へ帰還した。
 海保の仕事はあくまでも人命救助なのである。

 その一方で、船長自ら、もしくは海保職員が座礁船救助専門のサルベージ業者に連絡を取っていて、彼らの到着を待っているという。
 ただし驚くべきことに、その業者は九州から来るというではないか。
 保険その他モロモロのオトナの事情で、選択肢が限られているらしい。

 それにしても、いくら朝早いうちに連絡したからといって、九州から飛行機で1時間半、那覇空港からさらに陸路2時間は余裕でかかる水納島に、いったいいつ到着するんだろう?

 …と心配していたら、午後515分水納島着の最終便の連絡船で、件のサルベージスタッフ3名が到着した。
 連絡を受けておっとり刀で駆けつけた彼らは、到着早々桟橋脇に荷物を広げ、早速海に入って作業を開始。
 そしてその
30分後には島のユンボが桟橋へ向かう音が聞こえたかと思えば、当店にはタンクレンタルの依頼が舞い込んできた。
 ヨット救出の本格的作業を、そろそろ日も暮れかけている今この時から決行するのである。滅多にないことなのでタンクを運びがてらサザエさんのように桟橋に向かうと、早くもユンボでヨットを引っ張る準備が始まっていた。

 といっても、ユンボを運転しているのも、ロープをユンボに括りつけながら全体を監督して作業を指示しているのも、綱引きのようにロープを引っ張ってユンボの補助をしているのも、車のライトで作業現場を照らしているのも、ヨットで作業をしている本職スタッフと連絡を取りあっているのも、これすべて島民である。
 そして細かい指示は誰も出していないにもかかわらず、ほぼ船主そっちのけであれよあれよという間に作業は進み、とっぷりと日も暮れた午後
630分、ヨットは無事に桟橋に係留されたのだった。

 思いもよらぬ迅速なる救出。さすが専門業者、プロフェッショナルだなぁと感心しかけたものの、ユンボで引っ張ったほうが早いというアドバイスも方法もすべて連絡船の屈強な船員さんの指示のもとであって、桟橋上での作業はほぼすべて、島の人たちが力を合わせたものである。

 毎度のことではあるけれど、困っている人がいると助けずにはいられず、なおかつ海の状況に鑑みて最良と思われる方法で素早く作業をする島のみなさん。
 プロフェッショナルだったのは、実際のところ島民だったのかもしれない?