写真・文/植田正恵

171.通勤時間

月刊アクアネット2017年8月号

 先日ゲストとの酒席で通勤や満員電車の話になり、「都内の水族館で働いていたときは、通勤でその日の7割のパワーを消費してしまっていた」と言うと、「じゃあ残りの3割で仕事をしていたんですね」と笑われてしまった。

 まあ7割は大げさにしても、満員電車に揺られつつの往復100分間がかなり負担になっていたことはたしかだ。

 そこで、勤め始めて一ヶ月ほど経ってから、負担軽減のために「セルフ働き方改革」を施し、電車がさほど混まない早朝に出勤することにした。
 そうすれば車内で座席に座ることができ、満員電車で揺られ続ける日々を過ごすよりもよほど仕事の効率は上がった。

 水納島に来てからは、目覚めたその場がもう職場だから通勤時間は0分である。
 小さな島のこと、実際の仕事場である海に行くにも、ボートを係留している桟橋まで車で1分もかからない。水族館で働いていた頃なら夢に描いた理想の環境だから、これは最高!と最初のうちは大喜びしていたものだった。

 ところが、職場イコール自宅であることが、必ずしもいいことばかりではない、ということも徐々に明らかになってきた。

 仕事とプライベートとの境界が、他人からは見えなくなってしまうのだ。

 最近はゲストともメールでやり取りすることがほとんどなので、都合がつく時間に連絡を取ることができる場合が多いけれど、場合によっては昔同様、電話でのやり取りになることもある。

 零細企業の自宅兼事務所には電話回線がひとつしかなく、かかってくる電話が仕事上のものかプライベートのものかの区別はつかない。
 となると、朝6時だろうと夜11時だろうとお客様からの急を要する電話がかかってくるかもしれないダイビングシーズン中には、どのような時刻であれ電話を取らなければならない。

 そのため夜中にかかってきた電話に「ナニゴトか!」と寝床から飛び出して電話に出てみたら、酔っ払った友人からだった、ということもよくある(そんな電話に出た日には、時には殺意すら覚えることもある…)。

 また、お客様としてお越しくださるゲストのみなさんに比べると、家族・友人たちは彼らの遊ぶ時間、遊ぶ場所がすなわち我々の働く時間、仕事場だという意識がとても稀薄で、遊びに来るのだったら暇なときに是非、と日頃からどれだけ伝えていても、夏の繁忙期に平気で遊びに来ることが多い。

 遠路はるばる訪れてくれるのは有難くはあるけれど、酒の席まで含めれば朝6時ごろから深夜12時過ぎまで働かなければならないシーズン中のこと、とてもプライベートタイムを共に過ごすことなどできない…
 
 という事情などまったく斟酌してはくれない。
 「通勤」していない我々の様子を見ていると、仕事をしているのか遊んでいるのか、ほとんど区別がつかなくなるのだろう。

 同じ沖縄でも、小さな離島とは違って本島ともなれば、さすがに本部町あたりでさえ、通勤時間帯には交通量が多くなる。
 車社会の沖縄のこと、それが那覇あたりになると通勤渋滞が日常茶飯事で、我々のような田舎者がときおりそれにはまり込んでしまったら、必要以上にグッタリしてしまう。
 
 久しぶりの帰省時に満員電車に乗ったりしようものなら、もはや私は完全に都会生活不適格者になってしまっていることがよくわかる。


 仕事場まで時間と労力をかけて毎日通勤しているヒトたちって、ただそれだけで尊い仕事をしておられると思いますです……。