写真・文/植田正恵

179.スズメのいる日常

月刊アクアネット2018年4月号

 春うらら。

 ウグイスのさえずりが聴こえるようになり、縄張りを宣言するイソヒヨドリの地鳴きが日増しに高らかになってきた。
 スズメやキジバト、メジロの動きも冬に比べて随分楽しそうだ。

 これらは現在の水納島ではいつでも普通に見られる鳥たちながら、私が島に越してきた95年からしばらくの間、スズメはまったく姿を見なかった。

 なのでそもそも水納島にはスズメはいないものと思っていたところ、島のスズメの意外な歴史を知った。
 まだお元気だったおじぃやおばぁたちが、仕事や散歩のついでに旧我が家の庭に立ち寄っては、いろいろと昔話を聞かせてくれていたおかげである。

  おじぃおばぁによると、随分昔の水納島では、作物の風除けも兼ね、畑の周囲にグルリと麦を栽培していたという。
 その麦は貯蔵可能な穀物として、大切に台所で保存していたところ、それを狙ってスズメが台所に入り込み、手当たり次第に食べていたそうだ。

 昔は家の作りが今より遥かにオープンだったから、頭のよいスズメにとっては、麦がある台所なんていったら、ほぼ餌場の感覚だったのだろう。

  その後の暮らしの変化に伴って島では麦を作らなくなり、台所にも畑にもスズメの餌は無くなった。
 そのためなのかどうなのか、スズメはいつの間にやら島から姿を消したという。

 おじいおばあにしてみれば、昔はスズメのせいで大変だったけれど、今は台所を荒らされなくて楽になった、という実感があるようだ。

  そんな話を聞いた数年のちに、数羽のスズメが庭先で見られるようになった。
 5、6年近く1羽もいなかったのに、なぜ突如現れたのだろう?
 そういえば、その前年くらいからチャボを庭で飼い始めた我が家には、庭先にチャボの餌がたくさんあったからかも…。

  その後スズメたちは次第に数を増やし、現在は常時30羽くらいが島内で暮らしている。
 再び麦を作るようになったわけではないし、もちろんのこと米を作っているわけでもない。彼らはいったい何を主食にしているのかよく分からないけれど、年々増えているところをみると、きっと最近の水納島には彼らの食べ物が豊富なのだろう。

 聞くところによると、本土ではスズメが激減しているという。
 住宅建築の様式が変わり、昔のようにスズメたちが軒先に巣を作ることができなくなっていることも原因のひとつなのだとか。

 私の子供の頃には、あらゆる野鳥のなかでスズメは最も身近な鳥だったのに、今ではむしろレアな存在になっているところもあるそうだ。

  水納島の多くの家はスズメが巣を作るには絶好の造りをしてはいるけれど、スズメが家で巣作りした、という話はまったく聞かない。
 いったいどこでどのように巣を作っているのだろう?本島と水納島を行き来しているのだろうか。
  ヒトの暮らしをうまく利用するのは今のスズメも同様で、雨が降らない日がしばらく続くと、ダイビング器材用の洗い桶の水を飲みに来たり、天気がいい日にはカメの飼育スペースで砂浴びをしたりと、十数羽の集団が我が家の庭を実に有効利用している。

 干している布団へのフン害はあるし、畑のレタスを食べてしまうこともあるけれど、庭にスズメがいるなんて、実はとてもゼータクなことなのかも。
 すでにお星様になってしまったおじぃやおばぁを懐かしく思い出しながら、スズメたちを眺めている私なのだった。