写真・文/植田正恵

187.シャコガイLOVE
月刊アクアネット2018年12月号

 シャコガイは沖縄の重要な水産資源である。

 ただし足が早い素材であるためにほぼ産地でしか消費されず、この流通の世の中をもってしても全国各地に出回ることはない。

 学生時代には4年間沖縄本島で暮らしていたにもかかわらず、私がシャコガイを初めて口にしたのは水納島で暮らすようになってからのことだった。

 島に引っ越してきたばかりのこと。
 梅雨の中休みの暇な時期に連絡船の船員さんと海に繰り出したとき、彼が獲ったばかりのシャコガイを船の上でさばき、食べさせてくれたのが、私のシャコガイ初体験である。

 獲ったその場で速やかにさばき、海水で洗い、潮の味のみで他に何もつけずに食べる、素材の美味さ勝負のシンプルレシピだ。

 シャコガイの食べ方はこれが最高!と船員さんが言う。

 もともと貝好きの私にとってそれはシャコガイとの運命の出会いといってよく、瞬時にその味に魅了された私は、以降シャコガイラブの人になってしまった。
 しばらく食べないとシャコガイ禁断症状を呈するほどである。

 シャコガイは、熱帯から亜熱帯のサンゴ礁域の浅海に生息する。

 シャコガイの体内には褐虫藻が共生していて、その藻が光合成をして生み出す有機物を栄養分にしているため、日当たりのいい透明度の高い海でなければ生きてはいけない。

 同じく体内に褐虫藻を住まわせるサンゴと同様の生き方なので、サンゴ礁をひと泳ぎすれば、サンゴ同様日当たりのいいところにいるシャコガイを、苦も無く見つけることができるだろう。

 シャコガイにはいくつか種類があり、味にもそれなりに差があるけれど、いずれにしても居酒屋等でアジケー(シャコガイの沖縄方言)の刺身なんていったら、現地といえどもおいそれと口にできない高級メニューの部類に入ってしまう。

 ところが水納島のような離島だと、宿のご主人が自ら獲ってきたシャコガイを刺身で振る舞ってくれることもあれば、お客さんが自分で潮干狩りや素潜りで獲ってきたものを食べることもできる。

 当店でもスノーケリングのゲストを案内しているときに、シャコガイを1つ2つゲットしては、その昔船員さんに教えてもらった方法でお客様にふるまうこともある。

 もちろんその際には、本土ではまず食べられない貝で、沖縄でも結構値の張るものですよ、と一言添えて価値観を高めるのを忘れない。

 そうやってゲストにシャコガイをふるまうようになったきっかけは、旅先でのことだった。

 旅行中に立ち寄った居酒屋や鮨屋で、自分たちが沖縄からきていることを知った大将が、沖縄のシャコガイを一度食べてみたいんだよね…と遠い目をしつつ口を揃えて語るのだ。

 その道の方にとっては食材として相当気になるようで、どうやら私にとっての東北のホヤや、金沢のガスエビのように、彼らにとっての非日常的憧れの食べ物であるらしい。

 すでに島で暮らし始めて随分経ち、すでに個人的にはシャコガイなんていったら当たり前すぎ、有難みもなくなりかけていた頃にうかがったそんな各地の羨望の声が、シャコガイを見つめ直す大きなきっかけとなってくれたのだった。

 観てよし、食べてよし、飾ってよしの、南国情緒満載のシャコガイ。

 磯臭さに似た独特の風味があるため、好き嫌いがかなりはっきり分かれはするけれど、現地でしかいただけない食材であることだけはたしか。
 皆さんも機会があれば是非お試しください。