写真・文/植田正恵

190.ムシvs.ヒト→ムシの圧勝
月刊アクアネット2019年3月号

 亜熱帯の沖縄といっても、冬にはそれなりに冷え込む日もあり、毎年数回はエアコンの暖房のお世話になる。

 ところがこの冬は、今のところ(2月下旬現在)まだ一度も使わなくてすんでいるくらいに暖かい。
 おかげで天気が許せば海で畑で庭先で、屋外で活発に活動することができ、体も健康、気持ちも前向きになって、非常に楽に過ごせている。

  気温が高いおかげで活発なのは、人間だけではなかった。

 外気温に代謝が左右される昆虫たちは、冷え込めば完全に機能停止する。
 真冬でさえ天気が良ければ様々な虫が飛び交っている沖縄ではあっても、冷え込む日々もキチンとあるからこそ、蚊に悩まされることがない。

 ところが今年は暖冬のせいで、虫たちの活発なことといったら!

 蝶たちもまた、普段だったらありえないくらいの多さで、島のいたるところでヒラヒラと舞い飛んでいる。
 寒いところから観光にきた人にとっては、南国沖縄感たっぷりの、感動ものの亜熱帯の風景として記憶に残ることだろう。
 毎日見ている私ですら「うわあ、きれい!」と思わず口について出るほどだ。

 しかし、たしかにきれいなのだけれど、それを喜んでいられるのは畑仕事をしていない人たちだけ。

 開けた場所でヒラヒラ飛んでいる蝶のほとんどはモンシロチョウであり、モンシロチョウといえばアブラナ科の植物が食草。
 つまり大根、白菜、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、カブ、チンゲンサイ、小松菜などなどが、モンシロチョウの幼虫、いわゆるアオムシの格好の食べ物になる。

 冬が野菜のシーズンである沖縄の畑にとっては、実に厄介な害虫で、水納島のように無農薬でがんばっている畑の野菜たちは、放っておけば見るも無残な姿になってしまう。

  私が借りている20坪ほどの畑も例外ではなく、毎朝毎夕バケツの底が埋まるくらいのアオムシを除去しても、毎日毎日同じくらいの量のアオムシが野菜たちにとりついている。
 
 それにも負げずほぼ毎日1時間近くを費やしてアオムシ除去に励んだものの、結局上記アブラナ科の野菜は、例年の5割くらいしか収穫できずに終わりそうだ。

  これが島の農家となるとなまじ耕作面積が広いだけに、アオムシを真面目に除去していたらそれだけで一日が終わってしまうから、精も根も尽き果てたオーナーは、とうとうアオムシ除去をあきらめてしまった。

 そのためその畑は、ものすごい数のモンシロチョウが飛び交うメルヘンワールドに変身している。
 亜熱帯を求めて来島するお客さんたちにはもっぱら好評だけれど、農家にとっては大打撃であることはいうまでもない。

  地球温暖化が進んでいる昨今、この暖冬が異常ではなく恒常的になってしまうのではないかという危惧がある。
 温暖化により50年後の地球は重大な食糧危機に見舞われる、と予想されているようだけど、身の周りレベルではそれよりも圧倒的に早く、かなりのピンチになるかもしれない。

  そういえば、将来の食糧危機に際して人類の重要なタンパク源になる可能性が取り沙汰されているものといえば……昆虫だ。

 今うれしそうにキャベツをムシャムシャ食べてるアオムシたち、調子に乗りすぎると、30年後にしっぺ返しされるかもしれないぞ…

 …などと、メルヘンチックに飛び回る蝶を眺めながら思うのだった。