写真・文/植田正恵

194.時計要らずの”沖縄時間”
月刊アクアネット2019年7月号

 島に越してきたばかりの頃は本業がヒマだったこともあり、民宿でアルバイトを頼まれていた。

 朝夕の食事の準備、配膳、そして後片付けが主な仕事で、お客さんに食事の時間を伝えてもいた。

 閑散期ならともかく、宿泊者数が多い繁忙期には、決まった時間に召し上がっていただいくほうが、宿としては準備から後片付けまでいろいろと都合がいい。

 ところが沖縄県民は日焼けを避けるために夕暮れ時になってからビーチに行く方が多いということもあって、事前に午後7時からと伝えていようとも、夕食を食べ始めるのは夜8時過ぎになり、必然的にお開きは10時頃ということもよくあった。  

 時間にルーズに過ごすことをウチナータイム(沖縄時間)と言い習わしている沖縄ながら、夕食の時刻がテキトーになるのは、けっしてそればかりが原因ではなさそうだ。  

 これはおそらく、沖縄が日本の南西端に位置していることに大きな要因があると思われる。

 夏場ともなると午後8時くらいまで暗くならないものだから、夕涼みであれ海水浴であれ屋外作業であれ、暗くなったら終わり、という本能に基づいた時間割にすると、どうしても後ろにずれ込むことになってしまうのである。

 それこそ時計など誰も持っていなかった時代では、夜が明ければ働き始め、日が暮れれば終了、が基本だったことだろう。
 そういう生活リズムが遺伝情報的に染みついている以上、日本の標準時刻が告げる「夜」と、その地で暮らす住民の「夜」は、始まる時刻がまったく異なるのもしょうがない。

 実際島のおばあたちはそういった生活が染み付いているからだろう、島外に出るときは時計や携帯電話を持っていても、島内の暮らしの中でそれらを持ち歩くことはめったになく、畑仕事を終えて家路につく目安は、「暗くなったら」が基本だ。  

 おかげさまで本業のゲストが増え、おじいおばあが引退して娘さん夫婦があとを継いだこともあって、現在は民宿のお手伝いはしてはいないけれど、ダイビングの申し込み受付などのために、夕食時を見計らって民宿まで宿泊客を訪ねることがある。

 そういう際に、宿の方から「まだ夕日を見にビーチに行っているよ」と言われることもしばしばだ。

 民宿では一応7時から夕飯と定めているようながら、その時間から食べ始めているお客様は全体の半分くらいではなかろうか。

 食事の準備や後片付けをする民宿としては困ったことだけど、心地よい風に吹かれながら夕暮れ時の海辺を楽しんでいるときに、時刻に縛られ、あと少しで夕日が海に沈む!という時に宿に帰らなくちゃならないだなんて、あまりにも残念すぎる。

 で、結局夕日が沈むまで観ていたために食事の時間に30分遅刻したとしても、まったく目くじらを立てることなどない宿の方々のスタンスは、普段の生活で時間に縛られていることの方が多いであろうお客さんにとってはとても心地よいのではなかろうか。

 であればこそ、7時からと言っていた夕食の準備完了が7時30分からになってしまったからといっても、お客さんの方もいちいち目くじらを立ててはいけない。

 時計を持ち歩かずとも、のんびり心地よく過ごせる水納島。
 そういうスタンスで生きている島の人々に、ひところ騒がれたサマータイムなど、まったく無用であることは言うまでもない。