写真・文/植田正恵

197.オーバーツーリズム考(下)
月刊アクアネット2019年10月号

 大学生の夏休みが9月半ばくらいまで続くこともあって、学内で募集された旅行者ツアー等々で、水納島の9月前半は20歳前後の若者だらけになる。

 若者とひと口に言ってもピンキリで、なかには思わず拍手を送りたくなるほどにしっかりした目的意識と明確なビジョンを胸に秘めつつ学生生活を送っている子たちもいる一方で、ハロウィーンの夜に渋谷でバカ騒ぎをしているフトドキモノたちとほぼ変わらない子たちもいる。

 残念ながら後者の方が圧倒的に目立ってしまうため、マナーの悪さその他「観光公害」という意味では、一部の外国人旅行者となんら変わるところはない。

  割合にすればそのようなフトドキモノは微々たるものといっても、訪日外国人だって、際立ってマナーが悪いヒトばかりというわけではない。

 となると、同じ微々たる割合なら、分母が圧倒的に多い日本人のほうが、フトドキモノの数は訪日外国人旅行者よりも遥かに多いということになる。

 かつてのように旅行すること自体の難易度が高かった時代ならともかく、航空券ですら学生の1日のアルバイト代程度で購入でき、液晶画面のタップひとつでなんでも予約できる世の中では、困ったことにそのようなフトドキモノでも手軽に気軽に旅行できるようになっている。

 そのため沖縄の聖地では立ち入り禁止も含めた検討を要すほど不埒な行いをする日本人観光客が増えているというし、石垣島には、日本人客の目に余るマナーの悪さに耐えかね、ついに「日本人客お断り」という、一瞬何かの間違いでは?と目を疑う最後の手段に出たラーメン店もあるそうだ。

 日本各地の観光地や店舗におけるこのような話に共通しているのは、マナー違反や不埒な行動を注意されると「逆ギレ」するヒトが多いということ。

 客である自分に対して注意をするとは何事だ、と注意した店の人や係の者に食ってかかるそうな。

 どうやら近頃では、客である、消費者であるということが、なにやら強い権威・権力・権利とでも勘違いしている人が増えているようなのだ。

 幸い当店でも島内でもそのような害は今のところ体験していないけれど、物事の道理をわきまえないくせに妙な権利意識を持っている日本人観光客が増えていることによる「観光公害」は、なまじ同国人だけに、実は外国人旅行者に起因する各種問題よりも相当深刻に思える。

  いずれにしても、観光業の評価基準が入域観光客数の増減のみというところに、「観光公害」を招く諸悪の根源がある気がする。

 それよりも訪れたお客さんそれぞれの「満足度」を数値化した基準にしたほうが、少子化の先に待っている長い黄昏の時代を生き抜く成功に繋がるのではなかろうか。

 もっとも、消費増税によって格差社会が一層広がれば、社会的経済的に低層に位置することになる人々にとって旅行など夢のまた夢なんて時代になるだろう。

 そうなれば、日本人観光客による「公害問題」は、自然消滅的に解消することになる。

 薄利多売業者の需要も無くなり、水納島の夏も、再び平和な「鄙」の世界を取り戻せるかもしれない。

 島にのんびり滞在されている方々のみに開かれたビーチ……。

 その頃には我々だって今より遥かに社会的経済的低層に位置しているのは間違いないけれど、7月でもパラソルがまばらにしか立っていなかった時代を懐かしく思う私にとっては、まさに夢のような世界と言っていい。