写真・文/植田正恵

21.島の交通事情
月刊アクアネット2005年2月号

 最近は年に数えるほどしか行かなくなったけれど、時おり所用のため那覇方面で一泊することがある。そんな時那覇あたりの街を車で走っていると、そこらじゅうから子供やバイクが飛び出してきそうでとても怖い。かといって時速30kmで走ろうものなら非難ゴーゴーだろうから、私は都会では絶対運転しない(できないともいう)。

 実は私は、学生時代に沖縄で車の免許を取ったものの、その後スクーターしか乗らず、以後ずっとペーパードライバーだった。理由は簡単、私が運転したら他人に迷惑をかけるのが分かっていたからだ。
 ところが水納島に来てからそんなことを言っていられなくなった。
 ダイビング器材であれ農作業グッズであれ、重たいものを運ぶにはどうしても車の運転をする必要があるのだ。
 幸い桟橋の上など、広いところはいくらでもあったし、島内の道が混んでいるはずはなく、おまけにスピードの出しようがない細い道なのでのんびり練習ができた。おかげで本島内でも那覇などの大都会をのぞけば、人並みの運転ができるようにはなった。

 けれど水納島で生まれ育ったとしたらどうなのだろう。
 島内では頑張っても最高時速20キロ。もちろん信号はない。おまけに人も犬も車がよけてくれるものだと固く信じている。
 そんな水納島育ちの犬が本島に引き取られ、1度ならず2度までも大きな交通事故を起こし、下半身麻痺になってしまったことがある。彼は道路の向こう側にいた恋しいメス犬に向かって一目散に走ってしまい、当然のように車に轢かれたという。水納島だったらきっと車が止まってくれたんだけど…。
 2度目もまったく同じ状況だったというので、その犬が単にバカだっただけかもしれないが、本島で育っていれば、車や道路は危険なんだという認識がきっとあったことだろう。

 人間はある程度知識として学ぶことができるとはいえ、実践と知識はやはり違うものだ。実際に街の道路でいろいろ体験しておかなくては、将来困ったことになるだろう。だからお隣の伊江島にはさして必要はないのに信号が設置されているほどだ。
 かといって軽自動車がやっとすれ違える程度の道幅で、車3台続いたら大渋滞に思える水納島では、信号をつけるのは難しい。そもそも誰も守らないに違いない。なにしろつい10年ほど前までは車検切れの車を自分たちで修理しつつ使っていたくらいだから、安全基準も島民の暗黙の了解で守られているのだ(スピードを出さず、車がよけるか止まるかする)。
 そのため島の子供たちは、本島に出たときに先生や親から一般的な交通ルールを学ぶのだろう。都会はなんて怖いところなんだって思うのは私だけかもしれないけれど、交通ルールは自分自身を守るために必要な知識である。知らないと、将来酔っ払って道で寝る人になっちゃうかもしれない。

 最近は夏場だけ島に働きに来るアルバイトの人たちが、島内を荒々しく運転することも多くなってきた。そのスピードを見るにつけ、いつか事故が起こるのではないかとヒヤヒヤしている。人や犬やアヒルのような交通弱者は、車は止まるかよけるかしてくれると信じているのだ。車同士の接触事故が起こっても別になんてことないけれど、人も含めた対生物事故だけは起こってほしくないと思う今日この頃なのだった。