写真・文/植田正恵

24.春告げ虫シーべーの恐怖
月刊アクアネット2005年5月号

 桜前線の話題が一段落し、端午の節句が終わったら、季節の話題は梅雨入りに変わる。沖縄では本土よりも一足早く、ゴールデンウィーク明けあたりから梅雨になる。

 沖縄には四季がないといわれることもあるけれど、どうしてどうして、住んでいると四季折々の季節を感じることができる。桜が1月だったり、秋には紅葉がなかったりしても、春夏秋冬、きちんと季節はめぐっている。

 自然いっぱいの水納島では、季節の変化を感じる素材が盛りだくさんだ。
 アジサシ(渡り鳥)がやってきたり、畑にルリハコベが咲き出したり、ヘリグロトカゲが日向ぼっこをしているのを見ると、ああ春なのね…と思う。

 そうやって春を感じるもののひとつに、シーベーの発生がある。
 シーベーと聞いて何のことかわかる方は少数であろう。かくいう私は沖縄で四年間学生生活をしていたけれど、一度も出会ったことがなかったのはもちろん、話に聞いたことすらなかった。

 シーベーとはなんなのか。
 あらたまって問われると実は少し困ってしまう。何の害もない虫であれば、おそらくその存在にすら気付かないほどの小さな虫である。蚊をとっても小さくしたような、蝿を極小にしたような、そんな見てくれだというのに、刺すのか、噛むのか、とにかくコイツにやられるとめちゃくちゃ痒くなるのだ。

 このシーベー、3月の終わり頃、それまで寒かったところに湿った南風が吹いて急に暖かく(暑く?)なると突如出現する。

 

 どうやら海岸付近で発生しているらしいのだが、水納島は島内がどこも海岸付近のようなものなので、島じゅうどこにいても逃げ場はない。
 なにしろ網戸を難なく通過するサイズだから、屋内にいても安全地帯にはならない。さらに、この虫はおへその周りのような皮膚の軟らかいところが好きなので、衣服の内側に侵入したり、髪の毛の間、耳の穴まで入ってくる。
 とりつかれたが最後、こやつらの被害から逃れることはできないのである。

 水納島の島民なら知らぬ人など一人もいないこのシーベー。
 ところがこのシーベーはいったい何の仲間の昆虫で、どこでどうやって繁殖するのか、そして水納島以外ではどんなところにいるのか、いわゆる学術的な情報は皆無である。
 それどころか、本島にお住まいの方に聞くと、「シーベーが刺すの!?」とビックリされる。

 当初は地域によって性格の異なる虫なのかと思ったものの、詳しく話を聞いてみると、どうも虫の種類が違う。おそらくこれは方言名が同じであるだけで、それが示す虫の種類が異なるのだろう。

 このシーベーによる尋常ではない痒さのために、転任してきたばかりの水納小中学校の先生の誰かが、ついに病院に駆け込んだ、という話も過去にあった。
 1週間以上も続く痒さと腫れが、まさかこんな小さな虫のシワザとは思わなかったのだろう。病院ではいったいなんといって診断されたのか、とっても気になる……。

 このように、水納島で暮らす我々島民にとってシーベーの存在は恐怖であるため、3月から5月はシーベーの季節といってもいいぐらい島の人々の話題に上る。

 私も数年前までは毎年この時期になると痒さのために憂鬱になっていた。
 けれども最近は慣れたためか5日ほどで痒みがおさまるようになり、シーベーも季節感のメリハリになっていいかな、なんて思い始めているのであった。