写真・文/植田正恵

39.観天望気
月刊アクアネット2006年8月号

 お客様から、島に行くならどの季節がいいですかねえ、とよく聞かれる。
 もちろん盛夏がいいことは間違いないものの、混雑その他いろいろなことを考慮して、梅雨の中休みとか夏休み明け頃など、オススメの時期を答えるようにしている。 
 今やハイテク機器を使用しての天気予報が当たり前になっているけれど、本来お天気というものは経験則に基いて判断できることが多い。長期的にみても、「例年」を参考にすればおおむね概況は判断できる。

 何年も水納島で生活している人たちは、そういった「例年」に加えて、さまざまな動植物の様子、空の状態、体で感じる風の状態などで判断することができる。
 アジサシが空高く飛んでいたから嵐が来る、向こうの空に雨雲があるから30分後くらいに土砂降りになる、リュウゼツランの花がたくさん咲いたからその年は台風が多い、などなど。
 いわゆる観天望気である。
 雲や空気の具合だけではなく、気象に直接左右される自然下の生き物たちをよく観察すれば、おのずと分かってくるのだろう。
 島の人たちが集まると、よく気象に関する会話をする。もちろんそれは、農作業や、観光業に密接に関わってくることなので、非常に大切なことだからだ。必ず天気図を毎日見て、気象予報は1日に最低2回はチェックする、くらいしておかないと、台風シーズンや冬場はえらい目に遭うことになる。
 たかがお天気…と思うのは、出社するとき傘を持っていこうか、汚れてもいい靴で行こうか、という悩みだけで済む都会の人々の感覚だ。自然と密接に関わって済む我々にとっては、スタジアムのお弁当屋さんと同じくらいに死活問題になってくる。

 島に越してきた年の晩秋、まだ天気の変化に不慣れだった我々夫婦に、船員さんが「今日はこのあと北風が強くなるから、船をしっかり係留しとけよ」とアドバイスをしてくれたことがあった。その時はまったく穏やかな海だったのに、あれよあれよと言う間に風向きが変わり、1時間後には桟橋に立っていられないくらいの北風になった。
 強い北風が吹くということは天気予報が告げていたとはいえ、実際体感した風浪は予想を遥かに上回っていた。北風ひとつとっても、船が転覆するかどうかの問題になるのである。

 引っ越してきたばかりの頃は、そんなふうに天気予報より正確な予報ができる島民に感動していた。それが暮らし始めて12年経ってみると、自分も同じようにある程度観天望気ができるようになっている。さらに天気図と組み合わせて予報するので、植田さんの予報はよく当たる、とおばあたちに言われる事もあるほどだ。

 ところが最近は世界的な異常気象のために、「例年なら…」という予報はいえなくなっている。去年の4月にはたとえ前線通過のせいとはいえありえないほどに荒れ狂ったし、6月には、113年ぶりに沖縄の降雨記録を更新してしまった。梅雨とはいえ降りすぎである。
 かと思えばその後はほとんど雨が降らず、真夏の観光ピーク時にあわや断水か、という状態に陥った。台風は異常に発達し、やたらとたくさんやって来る………。

 世界的な異常気象は、経験に裏打ちされた観天望気の技さえ覆してしまう。これからの数十年は、新たな経験則の礎になるのかもしれない。