写真・文/植田正恵

49.アヒル捜索隊が往く(後編)
月刊アクアネット2007年6月号

 (承前)

 めでたくピーコが学校で飼われるようになって、一週間ほどたった頃のこと。
 島のある人が、アヒルが畑で悪さをしていると報せてくれた。
 しかし今度の私は慌てはしなかった。なぜなら……前日にピーコが学校から逃げたという話を聞いていたからである。

 畑の野菜たちにとって、自由を満喫しているアヒルほどたちの悪いものはいない。
 だから、畑で悪さをしているのは我が家のアヒルではないということを私としてはアピールしておかなければならない。なにしろ今回ピーコが目撃されているのは野菜がたっぷり植わっている畑で、おいしいところだけ貪り食っているというから大変だ。
 丹精込めて作った野菜を貪り食われたあるおばあなんて、頭にきて手にしていた鎌を投げつけたほどである。幸か不幸かあと一歩コントロールが定まらず、おばあは「惜しかった…」と悔しがっていた。<当たったらどうしてたんだろう??

 一方学校はといえば、一度ゲットしたアヒルが逃げてもそれほど大事件とは思ってはいなかったらしく、逃げてからしばらくは捕獲を試みるでもなく放置していたらしい。ところが、おばあたちの怒りの声が耳に届き始めると、のんきに過ごしているわけにはいかなくなった。

 そんなとき、ちょうど島の飲み会が学校であった。
 案の定ホットな話題はアヒルのピーコである。どうやったらピーコを捕まえられるか。

 水中銃で撃つ……無傷で捕まえられないので却下。
 伊是名島で野生のカモを獲る際に行われているというカエルを使ったワナ……個人的に大変魅力的な案だったのだけれど、残念ながら水納島にカエルがいない。

 で結局、島の投網の名人に頼む、ということに。

 翌日、普段はミジュンやスクという小魚を捕るのに使われている投網を担いで、島の投網名人が、ピーコを一時間に渡って追跡した。
 何度か網を投げ、もうちょっとというところまでいったのだけれど、敵もさるもの、最後は海に逃げられてしまった。その様子を双眼鏡で眺めていたアヒル被害者のおばあは、地団太を踏んで悔しがっていた。

 ところがその数日後、それまでの苦労がウソのように、あっけなくピーコは捕獲された。
 やや暗くなって動かなくなったところを、寝込みを襲う作戦で学校の先生たちがいともたやすくゲットしたのだ。島を揺るがした「アヒル騒動」はこうして終息した。

 そして現在、鳥小屋は2つに分けられ、ピーコとガーコは別々に飼われている。当初一緒にした際にはけんかばかりしていたらしく、おそらくはその勢いで小屋の扉が開いてしまって逃げたのだろうという推測に基づく配慮だ。ガーコのお友達にしようという本来の子供たちのもくろみはあえなく崩れ去ってしまったが、畑の野菜には代えられない。

 たった1羽の迷いアヒルによって、さまざまな人たちがいろんな形で係わった事件だった。
 捕まえてすぐに食べてしまうのが手っ取り早かったという話もあるが、畑の持ち主には申し訳ないけれど、静かな冬の話題としてはなかなか盛りだくさんだったといえる。
 子供たちも先生方も、逃がしてしまったことに責任を感じて捕まえる努力をしたというから、生き物を「飼う」ということについていい勉強になったに違いない。