写真・文/植田正恵

60.漂 着
月刊アクアネット2008年5月号

 4月になり、いよいよ海のシーズンが到来するのを前に、島民総出でビーチ清掃を行った。本来はお役所が管理するところなのだが、彼らは権限を振りかざしはしても、そういう作業にはけっして参加しない。

 ビーチに流れ着いているゴミが自分たちが出してしまったものなのだったらともかく、ハングル文字が書かれた得体の知れない容器やらブイやら、そのほとんどすべてがどこかしら遠くの海から流れ着いてきているものだから、ゴミの供給元には鉄槌を下したい気分になる。
 どんなに自分たちがつましく暮らしていようとも、大量消費の果てのゴミだけは毎日毎日休む間もなく流れ着いてくるのだからやるせないったらない。

 そんなビーチ清掃のおり、海岸に漂着していたのはゴミだけではなかった。
 カツオノカンムリという生き物が数多く漂着していたのだ。危険なクラゲとしてよく知られているカツオノエボシのお仲間で、本来は水面上の体の一部を帆のようにして風を受けつつ大海を漂流し、一生を終える生き物である。それが季節や風向きによって、こんな小さな島に大量に漂着する、ということはなかなかにロマンチックな話ながら、カツオノエボシほどではないにしろ有毒クラゲなので、ビーチとしては歓迎できない漂着物でもある。

 ゴミといい危険生物といい、漂着物なんてどれもこれも迷惑千万……
 …かというとそうでもない。海岸には実に様々なものが漂着するのだ。

 今と違って島のおじいたちが元気一杯のやんちゃ盛りだった十数年前のこと、あるおじいがちょっと変わったタバコを吸っていた時期があった。見たこともない六角形のハードパッケージ入りで、六本木のオネーチャンが吸っていそうな細くて長いタバコである。もちろんそれまでそのおじいがそんなタバコを吸っている姿を目にしたことはなかった。

 ところが、他のおじいたちも同じタバコを吸っているではないか。これはどうしたことだろう?訝しげに件のおじいに訊ねてみると、彼はいたずらっ子のようにニヤリと笑い、

 「海からの贈り物」

 と一言。
 ん?どういうこと??

 なんとそのタバコは、水納島に漂着した箱の中に大量に入っていたものだったのだ。
 ビニールで幾重にも包まれた完全防水仕様のパッキングだったこともあって、漂着物だというのに余裕で吸える状態のままだったらしい。
 それを発見したおじいはイタズラ心を起こし、試しに自身が吸ってみて…からだったかどうかはともかく、皆にも勧めたわけだ。

 さすがに私はその恩恵(?)には与らなかったけれど、漂着物にはこのほかにもガラス製の浮き玉や流木などなど利用価値のあるものがたくさんある。本当に「海からの贈り物」だ。
 しかし現実に目を向けてみると、海岸にはそういった「贈り物」を遥かに凌ぐ量のゴミが溢れている。ペットボトルやプラスチック、ビニール袋など、無ければたしかに不便このうえないかもしれない「文明の利器」のなれの果てが、今や世界中の海岸を席巻しているのだ。それらの害は、カツオノカンムリどころの話ではない。

 「ゴミをポイ捨てしてはいけません」。

 子供でも理解できるこの簡単な戒めを世界中の人たちが守るだけで、世界中の海がきれいになるのだけれどなぁ。誰でもわかる簡単なことほど実践できないのが、今の世の中であるらしい………。