写真・文/植田正恵

72.保存食の知恵と醍醐味
月刊アクアネット2009年5月号

 

 2月に会津を旅していたとき、家々の軒先に、筆箱くらいの大きさに切られた大根がたくさん干されているのを見た。
 その1ヶ月後に同じ場所を訪れてみると、件の大根はあめ色になり大きさも半分以下にまで縮んでいた。それは凍み大根という、会津地方の冬の保存食なのだそうだ。雪の下に貯蔵しておいた大根を大寒の頃に掘り出し、切って湯がいて軒先に干し、3月ごろに煮物にして食べるという。
 ものすごく手間がかかるものだけれど、今のようにモノが簡単に流通しなかった頃は、雪に閉ざされる冬の重要な食料のひとつだったであろうことは想像に難くない。

 それにひきかえ、冬でも緑が豊富で花まで咲いている沖縄では、食料を保存しようという文化が育つはずはない。食べるものがなくなったら、海や山に行ってとってくればいいのだから……。

 …と最近まで思っていた。
 たしかに基本的にはそうなのだけれど、いっぺんに大量に獲れたり採れたりしてしまった場合の保存法も、実は沖縄にもしっかり根付いていた。
 そのひとつが塩漬けだ。
 毎年お正月用に各家で豚を1頭つぶしいてたその昔、当然1度には食べきれない量の肉が出る。それをここ一番の時に使うために、木箱に塩を敷き詰め、その中に保存したという。そして半年くらいはその肉を大切に食べたらしい。
 今でも沖縄料理の店に行くと、その塩漬けの豚肉の料理(スーチカーという名。塩を適度に抜いて切って焼くだけ)がある。保存食の醍醐味で、水分が抜けてうまみが凝縮され、えもいわれぬ妙味である。

 今は冷蔵庫が家にあるのは当たり前、ちょっと出かければスーパーでいくらでもモノが手に入るのだから、買ってきた肉をわざわざ塩漬けにする必要はない。にもかかわらずスーチカーのファンは多く、水納島でも酒のつまみに最高、という評価を受けている。そのほか、半年も保つものではないにしろ、かつては魚も塩漬けにして一週間ほど保たせていたこともあるそうだ。

 どちらかというと寒い地方の食べ物だ、と認識していた漬物も、意外に水納島でも作る人がいた。
 ただしその味付けが独特で、ほとんど「ピクルス」なのだ。冬といっても暖かいから、腐敗防止のために酢をたくさん使うのでそうなるようだ。
 最近は作らずとも手軽に手に入るようになったせいか、それとも寄る年波か、あまりたくさんは作らなくなったようだけれど、10年くらい前はよくおすそ分けをもらうことがよくあり、酢と三温糖で味付けされた大根は、ご飯のお供というよりは、お茶うけ的おやつ感覚で食べられた。

 これら生活の知恵的保存食は、生活がどんどん便利になっていくにつれてだんだん消えていく傾向にある。やがて作る技術と知識を持った世代がどんどん減っていってしまい、気がつけば商業ベースに載った画一化された商品だけが食卓に並んでいるかもしれない。

 しかし文化とは、合理的ではないからこそ育つもの。手間のかかる保存食にはその地方独特のものがあるし、同じ地方であっても、それぞれ各家庭の味があっておもしろい。自然界でもそうだけど、多様性というのは可能性にも繋がるのである。
 かくいう私も、微力ながらそういったものを残す努力をしていきたいと近頃思っている。なにしろ酒飲みにとっては、おいしい肴の危機なのだから。