写真・文/植田正恵

84.島の子供たちの味覚を育む魚料理
月刊アクアネット2010年5月号

 

 水納島では島民が一堂に会する宴席がよくある。
 そんなときはもちろん島の子供も参加するので、宴席で彼らと会話することも多い。

 ある宴席で、ややメタボが心配な子供二人に「魚と肉とどっちが好き?」と訊いてみたことがある。現代ニッポンの子供のこと、当然のごとく「肉!」という答えが返ってくるかと思っていたら、驚いたことに二人とも、迷うことなく「魚!」と叫んだのだった。

 水納島は漁師の島ではないけれど、時々島の人たちで追い込み漁をすることがある。余程のことがない限り大量だ。
 そんなものすごい数の獲物をどうやって食べるのかというと、もはや伝統といっていいくらいの定番料理になる。

 その一、大きめでクセのない魚は刺身で。
 その二、やや小さめの魚はから揚げで。
 その三、身離れがよく出汁が出る魚は魚汁か、まーす煮(塩煮)で。

 ちなみにから揚げは、塩のみで味付けした素揚げで、じっくり揚げるのが水納島流で、骨やヒレまで食べられるから丸ごとの姿になる。
 引っ越してきた当初、亜熱帯特有の各種魚たちがそのまま丸ごとから揚げになって皿に盛られているのを見たときは、内心「ゲゲゲ…」と思ったものだった。
 ところが今では、そういった大量に獲れる亜熱帯の魚たち、なかでも方言でクスクーと呼ばれるニザダイの仲間のから揚げは、好物のひとつになっているほどだ。

 まーす煮は、内臓を取り除いた魚を出汁と塩で丸ごと煮るという、いたってシンプルな料理だ。沖縄風シンプルアクアパッツァ…といったところか。おそらくその昔、大人数で手っ取り早く食べるために、海水を調味料代わりに使っていたのではないかと密かに想像している。
 これを最初見たときは、あまりのシンプルさのためにまだ料理の途中なのかと思ってしまったのだが、今ではこれまたふと食べたくなる料理の一つになっている。

 魚汁と称される料理は、これら大量の魚を具にする味噌汁で、とにかく量が半端ではない。宴席用ともなるとそれこそ4〜50人分くらいをドドンと作る。飲み会のシメにいただくと、しみじみ美味しくて、つゆだけでもお代わりしてしまいたくなるヨロコビの味だ。二日酔い状態の翌日にいただくと最高♪

 刺身となれば、産地直送どころか産地でいただくのだから、今さら言うまでもなくうまい。イラブチャー(ブダイの仲間)の刺身なんて、本島の居酒屋で食べるものとホントに同じ魚なのかと思えるほど、コリコリして臭みもなく、むしろ甘みすら感じる。

 こんな魚と料理を、望むと望まないとにかかわらず、島の子供たちは生まれたときから口にしている。なんの先入観もないその舌は、本当に美味しいものや、素材の微妙な味を感じることができるようになっているはずだ。
 だから彼らにとっては、肉よりも(水納島産のという限定付きかもしれないけど)魚のほうが好き!という結論になるわけだ。件の二人がややメタボっぽいのは、肉を食べ過ぎたからではなかった。

 これが普段からレンジでチン食品や外食で食事を済ましている子供たちだったら、その良し悪しはともかくとして、「魚が好き!」という返事が返ってくることはないだろう。

 三つ子の魂百までという言葉のとおり、島で育った子供たちの味覚は、将来きっと財産になるに違いない。そして大人になって島外で魚を食べるとき、同じ素材、料理であっても、島の魚は美味しかったなぁ、としみじみ思い出してくれることだろう。