写真・文/植田正恵

97.出張青空車検
月刊アクアネット2011年6月号

 

 水納島は周囲4キロの小島で、集落の端から端までは歩いて5分もかからず、畑や桟橋まで歩いても10分とかからない。
 そんな小さな島とはいえ、生活物資や各種仕事道具その他重たいものを運ぶ必要から、一家に一台自動車がある。

 まだ私が水納島に客として遊びに来ていた20年以上前から、すでに島には車があった。
 ただし当時の沖縄県内の小さな離島の多くがそうであったように、登録した車をわざわざ島に運んできたりはせず、もっぱら廃車手続きが済んだ車を本島の縁者からもらいうけ、それを島で乗りつぶす、というスタイルだった。

 当然ながら、ナンバープレートなどあるはずがない。
 たまにナンバープレートがついている車を見かけたと思ったら、それは手書きで書かれた自宅の電話番号だったりした。

 そんな御伽噺のようなのんびりした素朴な時代は、やがて終わりを告げた。
 私が島に引っ越してきて数年が経った頃、

 「沖縄の島々では、税金を払っていない車が堂々と走っている!同じ国なのに不公平である!」

 というような記事が、ある写真週刊誌に無ナンバーの大きな軽トラの写真とともに、ドドンと掲載されてしまったのだ。

 写真週刊誌記者の意味不明の「正義」は、人々の暮らしの改善には1ミリも寄与しなかったかわりに、それまでいい意味で看過してくれていた運輸省(当時)を動かすことになってしまった。
 お役所の面子にかけて、各離島の自動車をすべて登録させるということになったのである。

 以来、公道の総距離500mほどしかない水納島のような島でさえ、キチンと税金を納めて車検も通した車が走るようになっている。
 ところで。
 そうやって法に則って自動車を登録させるのはいいとして、お役所も修理工場も何もないこの水納島で、どうやって車検を受けるのか。

 そこで出張車検だ。
 島での車検は毎年11月末頃と決まっていて、あらかじめ水納島御用達の自動車整備工場の方が、その年車検を受ける車の状態を鋭くチェックし、事前に整備してくれる。
 そして車検当日には、国交省の係官が自動車整備工場の方ともども島にやってきて、一台一台車をチェックしていく、という寸法だ。

 車検といってももちろん島内には自動車整備スペースなどあるはずはなく、毎年多くても5台くらいの車が学校の前の道路に勢揃いし、係官がカンカン、コンコンとたたいてチェック、ワイパーOK、ウィンカーバッチリ、クラクションプップー、ブレーキジョートー、はいオッケー!!という具合の、いたってマジメな青空車検なのである。

 こうして、写真週刊誌記者が訴えた正義は、行政により現在キチンと実現されている。
 で、同じように税金を払っているのに、「この道路は、自動車重量税で作られています」なんていう道などひとつもない。町道にもかかわらず、その沿道の草刈りその他維持管理はすべて住民がやっている。
 そのあたりのことは、写真週刊誌記者には不公平に見えないのだろうか??

 まぁそんな話はさておいても、小さな島ならではのこの車検の風景は、それはそれでなんだかしみじみ味わい深く、つい人に話したくなるほどに面白いのであった。