写真・文/植田正恵

98.5月のストロング台風
月刊アクアネット2011年7月号

 

 水納島に越してきてからの私にとって、ゴーヤー(ニガウリ)は買うものではなくもらうものだった。
 ああそれなのに、先日何年かぶりにスーパーで買ってしまった。

 島では各おばあが毎年ゴーヤーを数本植え、5月ごろから収穫が始まる。露地栽培の野菜がまったく収穫できない夏場でも、「とりあえずゴーヤーはあります」的に重宝する野菜だ。
 それも、1本の蔓から無尽蔵といっていいくらいに採れるものだから、普段の年であれば、収穫が本格的になる6月にはおばあたちからおすそ分けをいただき、我が家の冷蔵庫の野菜室は嬉しい悲鳴をあげているはずだった。

 ところが今年は、55月に発生した台風11号、2号どちらも沖縄本島を直撃、水納島の夏野菜はほぼ壊滅してしまった。
 今から植えなおしても、収穫できるようになるのは8月になってからだし、それまでにまた台風が直撃する可能性が高いため、島のおばあたちは今年の夏のゴーヤー作りはあきらめてしまった。
 ゴーヤーが食べたければ、もはや買うしか方法はなくなったのである。

 それにしても5月に台風が2個も直撃するなんて、私が島に越してきてからの17年間で初めてのことだ。
 2号に至っては、5月に沖縄に来た台風では観測史上最強の風が吹いたというし、島のみんなが口を揃えて、近年まれに見る強烈な台風だったと言っている。
 5月の台風らしく足が速かったのが災いし、風速プラス台風の速度の合わせワザが、水納島でこの方角からだけは吹かれると困る…という風向きで猛威をふるってしまったためであろう。
 あるおばあは、娘時代以来の(ということは50〜60年来の!)すごい台風だった、と言っていた。あまりにもすごかったのと、それでもとりあえずみんなが無事だったので、台風明けの日は島のみんなで「台風の後片付けお疲れさまバーベキュー」をしたくらいだ。

 フライング気味の5月の台風といえば、大した勢力にならずに足早に去っていくだけ、ということが多いから、思いのほか強烈だったことが、余計に台風の威力の凄まじさを感じさせることになったのかもしれない。

 とはいえ、本来それほど吹かないはずの季節に台風に襲われた沖縄地方では、水納島のゴーヤーどころではない農作物の被害が各地で発生している。ゴーヤーしかり、収穫間際の葉タバコしかり、スイカ、マンゴーといった各種フルーツしかり。それらが軒並み値上がってしまって、今夏のゴーヤーは史上空前の高級野菜になりそうな気配だ。

 これをもって「異常気象」と言われても、もはや「異常」かどうかはなはだ疑わしい。
 実際、気象が読めなくなったと言われて久しいし、過去の経験則では考えられない現象が増えてきて、なにかといえば「観測史上最大」のオンパレードだ。

 何物にも代え難い経験則を踏まえて家を建て、お月様の暦に合わせて農作業をしたり海に出て魚や貝を獲る島の人々の暮らしが、この先大きく左右されることは間違いない。

 水納島は自然がいっぱいで、その恵みがたっぷりある反面、自然の厳しい面の影響ももろに受ける。その自然が、どんどんメリハリのある両極端な状態になっている気がする。
 小さな島でつましく暮らしている我々にまで、ハイリスクハイリターンな生活が求められているのだろうか?ゴーヤーが食べられないどころの話ではないかもしれない…。