エビカニ倶楽部

ハイガザミ

甲幅 9mm

 ガザミと名のつくカニといえば、小さな種類でもなんとなく頑丈そうな体格をしているイメージがある。

 ところがこのハイガザミは、ガザミとは思えぬ繊細かつ美麗な脚線美を誇る。

 しかもヒレ状になっていることがワタリガニ科(ガザミ科)の特徴のはずだった第4歩脚は、その他の脚と同じく爪状になっている。

 じゃあガザミじゃないんじゃないの?

 …とシロウトは言いたくなるのだけれど、もっと大事なところ(どこなのかは知らない)がガザミなのだろう。

 ワタリガニの仲間たちは英名でswimming crabと呼ばれるのは、このヒレ状の脚を使ってホントに泳ぐからその名がある。

 ところがこのハイガザミは泳ぐための脚を持たず、這い回るだけ。

 なので「這い」ガザミなんだって。

 わかりやすさがステキ…。

 ハイガザミは大きいものでも甲羅の幅は10mmに満たないくらいの小さなカニで、そのうえ石の下や礫の隙間に隠れているから、フツーに泳いでいるだけではまず出会えない。

 もっとも、かきいう私はこのカニ会いたさに探したことはなく、そういう場所にいる人気者のエビカニをゲストにご覧いただこうとする際にふとしたはずみで登場してくれたことがあるくらいのものだ。

 でもたとえ目当てのカニではなくとも、美しいフォルムと淡い色味に出会うと、思わず「おっ?」となる。

 なにげに顔つきもカワイイ。

 ありがたいことにこのカニには、一般向けのカニの図鑑といえば「沖縄海中生物図鑑・甲殻類カニ編」(新星図書出版刊)しか無かった頃(80年代後半)からすでに和名がついており、初めて出会った当時からこの覚えやすい名前のおかげですぐさまお馴染みの存在になった。

 だからといって、けっしてフレンドリーというわけではない。

 ハイガザミ目当てでサーチしたことがないからあくまでもイメージながら、礫混じりの砂底ではなく、細かい死サンゴ礫がたくさん堆積している海底を好んでいるように思われる。

 なのでそういう環境が見られる場所でサーチすると、出会う機会はわりと多かった(近年は石を引っくり返さなくなったから不明)。

 ただし見つけたとしても、すぐさまチョコマカ逃げて礫の隙間に潜り込んでいく。

 こうなってしまうと、自慢の(?)美しい脚がまったく見えなくなってしまう。

 なので見かけた回数のわりには、さほど親しいお付き合いができていないカニでもあるため、あいにく自慢の(?)脚先までキチンと撮った写真がない。

 それなりに見栄えのする舞台を設置でもしないかぎり、その繊細かつ美麗な脚線美(?)を堪能するのは難しいのだろう。