エビカニ倶楽部

イソカクレエビ属の1種

Vir euphyllius

体長 20mm

 冒頭の写真のエビを撮影した当時は、手元の図鑑のどれにも該当するエビが載っていなかったから、きっと誰も知らないヒミツのエビなのだろうと1人でほくそ笑んでいた。

 ところがある時たまたま手に取った月刊ダイバーのバックナンバーで、このエビを発見してしまった。

 今は無き(?)月刊ダイバーでは、その昔西表島のミスターサカナさんがフォトエッセイを連載されており、たまたま手に取ったその号にこのエビの写真が掲載されていたのだ。

 誰も知らないと思っていたら、このエビの存在はすでに公になっていたのだった。

 ただしその連載記事では「ヒメイソギンチャクエビ」という和名で紹介されていたため、長らくこのエビのことをその名で呼んでいたところ、その後研究が進み、いつの間にやらその名は別のエビのものとなってしまった。

 それから随分経った現在(2022年)でもこのエビにはいまだ和名はつけられていないんだけど、Vir euphyllius という学名でちゃんと公的に(?)認識されているようだ。

 これくらいのサイズにまで育っている子と会ったのはこれまでに2度しかなく、いずれもあたりが薄暗い夕刻のことだった。

 暗かったのと、すぐにナガレハナサンゴの間に隠れてしまったのとで、本当に見たのかなぁ、幻だったかも…と心配になったけれど、現像が上がってきたフィルムにはしっかりと写し出されていたのでホッとしたことを覚えている。

 最新図鑑によると、このエビは日本ではナガレハナサンゴ専属なのだとか。

 かつて水納島であれほどフツーに見られたナガレハナサンゴの群体は、ニセアカホシカクレエビの稿でも触れているようにその後急速に激減してしまったため、当時でさえ滅多に会えなかったこのエビに会うどころか、エビがついていそうなナガレハナサンゴを見つけることすら難しくなっている。

 将来的にナガレハナサンゴが復活するかどうかはまったくわからないけど、今日明日のことではないことだけはたしかで、冒頭の写真は今や貴重な1枚、いやいや、唯一無二の1枚になっている……

 …と思いきや。

 もう一度よぉ~くよぉ~くこれまでに撮った写真(デジタル画像)を見返していたところ、撮った本人(私のことです)すら驚いたことに、その後再会を果たしていた。

 2014年のクリスマスイブのことで、ナガレハナサンゴの親戚のコエダナガレハナサンゴ(タコアシサンゴ)と思われるサンゴ(下の写真参照)の上にいた。

 エビをひと目見て「おっ!?」と思って撮ったことは覚えているけれど、まさかこのエビが冒頭の写真のエビと同じ種類だとは、当時はまったく認識できなかった。

 ところが今さらながら図鑑の解説を熟読してみたところ、「サンゴ礁のエビハンドブック」の解説で述べられている、

  • 体は透明で赤褐色の細かい斑点が散在している
  • そのため体が赤味を帯びて見える
  • 両眼をつなぐように白色の横帯がある
  • その両側を赤い細線が走る
  • 頭胸甲の先端に鮮黄色の斑点が散在する

 …といった特徴に、見事合致するのだ。

 ちなみに正面から、ならびに頭部のアップ。

 パッと見の印象は随分異なるものの、それはオスメスの差か成長段階の差なのだろう。

 以上を踏まえ、今度はさらに昔のポジフィルムを見直してみたところ、これくらいのサイズのものなら日中にけっこう撮っていたことを今さらながら知った。

 昔のポジフィルムといえば、水納島に越してきたばかりの95年には、だんなもオトナのこのエビを撮っていたことが判明した。

 特に「エビエビカニカニ…」じゃなかっただんなが出会えるくらいなのだから、当時いかにナガレハナサンゴが多かったかということがわかる。

 ナガレハナサンゴさえ元気なら会えるエビは、ナガレハナサンゴが激減してしまえば、出会う機会が減るのは当然のこと。

 コエダナガレハナサンゴだって、水納島ではわりと深めのところで観られるとはいってもせいぜいハンドボール大の群体でしかなく、数はかなり少ない。

 それでもチェックすると若い個体がいたのだから(もう9年前だけど)、再び大きな個体と会える日が来るかもしれない。

 諦めずに今後もリサーチを続けようっと。