エビカニ倶楽部

コマチコシオリエビ属の1種

Allogalathea babai

甲長 10mm

 コマチコシオリエビの稿で触れたように、彼らは体色のバリエーションが豊富なので、ひと昔前は冒頭の写真のタイプもまた、コマチコシオリエビのカラーバリエーションということになっていた(はず)。

 ところが今世紀に入ってからエビカニアカデミック変態社会ではコシオリエビの仲間たちについても分類学的研究が進み、ウミシダについているこの色模様のコシオリエビは、どうやらザ・コマチコシオリエビ(Allogalathea elegans)とは別の種類であるということになった。

 そして2011年に Allogalathea babai という名で新種記載されたようだ。

 それを知ったのはつい最近のことなので、当店ゲストには長い間ずっと「コマチコシオリエビ」と案内してきたのはいうまでもない…。

 水納島では昔から日中に見かける頻度的にはこの種類が最も多く、オレンジのウミシダにはオレンジ色バージョンの子が暮らしている。

 ただし彼らは、リュウキュウウミシダ類で見られる「巻き枝」と呼ばれるウミシダの脚(岩をホールドしている部分)にいることが多く、たいていの場合逆さまになっているから見づらいことこのうえない。

 それでもたまにウミシダが岩の先端などについていると、巻き枝部分を覗きやすくなる。

 なので、いたとしても観づらい撮りづらい場所に居るウミシダでわざわざ探すよりも、居れば観やすい撮りやすい場所に居るウミシダをサーチする方が便利。

 ともかくそうやって脇から覗き見てみると、危険を察知するのか、彼らは両のハサミ脚を左右に細かく高速にフリフリして威嚇してくる。

 小さなコシオリエビがハサミ脚をフリフリしたところで、観ている側としては痛くも痒くも怖くもないものの、そこは彼のプライドを尊重してあげなければならない。

 大きめの個体は巻き枝部分に逆さまになっていることが多いのに対し、まだ若く小ぶりな個体は、羽枝(モシャモシャしている部分)に紛れ込んでいることがちょくちょくあって、ともすれば表面に出てくることもある。

 羽枝の表面などで全身をさらけ出しているときは、ハサミ脚を大きく振り上げて威嚇のポーズをとる。

 これまたこんな小さな体でどれほど威嚇のポーズをとろうとも、ウミシダのモシャモシャをものともしないベラなどの甲殻類ハンターに見つかってしまえば、ひとたまりもなさそうだ…。

 体の色味にはいろいろあれど、ともかくも水納島で観られるコマチコシオリエビ系はこの A.babai さんが多いので、そのつど「コマチコシオリエビ属の1種」とか書かなければならないガイドさんは大変だ。

 エビカニアカデミック変態社会方面には、いっこくも早く和名をつけていただかないと。

 ま、この和名無し君を「コマチコシオリエビ」と紹介したからといって、誰も何も困らないとは思うけど。