エビカニ倶楽部

コモンヤドカリ

甲長 50mm

 恥ずかしながら私はこれまで長い間、このコモンヤドカリの「コモン」を、英語のcommonに由来しているものとばかり思っていた。

 それくらいコモンヤドカリは、ごくごくフツーでありふれていて当たり前に観られるヤドカリなのだ。

 ところが和名の「コモン」とは「小紋」、すなわち手脚に散りばめられている白い点々模様のことだそうな…。

 他に形容のしようがありそうな模様なのに、よりによって小紋とはなぁ…。

 基本的に夜行性といいつつ、昼間でもわりとフツーにそのあたりをテケテケ散歩していることが多いコモンヤドカリは、リーフ内などの浅いところが大好きだから、ビーチの波打ち際、膝下30cmほどの海底にもいる。

 水納ビーチなら海水浴中に出会えるほか、リーフ上やリーフエッジ付近でも見られるから、スノーケリングをしていても出会う機会は多いはず。

 ところで、ヤコウガイという貝をご存じだろうか。

 ↑これは小ぶりなものながら、それでもサザエ(チョウセンサザエ)と比べればかなり大きい。

 大きいものなら殻だけで2kgもあり、昔から貝殻は貴重な装飾品として利用されてきた一方、水産資源としても重宝されている。

 ただし県内各地の海では乱獲がたたり、今では存在自体が貴重になっている貝でもある。

 その昔琉大ダイビングクラブの現役部員時代には、酒の肴調達係として海に繰り出すことも少なくなかった。

 不寛容かつ世知辛い今の世とは違い、慎ましくもゆるく楽しかったその昔は、学生がその日食べるサザエを素潜りして獲っていようとも、そんなことはウミンチュのみなさんにとってさえきわめて「コモン」かつユージュアルなことで、咎め立てするヒトなど1人もいない素敵な世の中だったのだ。

 そんな酒の肴調達任務を帯びたある日のこと、海中道路の先の伊計島まで行き、サザエ獲り目的で素潜りをしていたところ、水深3mほどのリーフの岩の上に、20cm以上のヤコウガイがドデンッと乗っかっているのを発見した。

 肴調達係としては、これ1匹でその夜のヒーロー確定である。

 これはなんとしても持ち帰らねば…と使命に燃えてむんずと掴み、岩から引き剥がそうとした。

 ところがヤコウガイ、もの凄い力で岩にへばりついてまったく剥がれない。

 さすが大きい貝は力があるなぁと感心しつつ、息を整えて再びトライ。

 火事場の馬鹿力、息ごらえ中の糞力。

 渾身の力を使い、やっとの思いで引き上げてみれば、なんとそれは…

 特大のコモンヤドカリ!

 こんなでっかい貝殻を利用するヤドカリがいるなんて夢にも思っていなかったものだから、トカゲと思ったらハブだった…くらいにとんでもないモノを掴んでしまったと思って一瞬ギョッとしてしまい、手を離してしまった。

 必死の思いで獲った貝は、水深20mほどの海底に力無くユラユラと落ちていき、酒席のヒーローの座ゲットの野望もあっさり沈没。

 それにしても、大きくなる種類とは知っていたけれど、コモンヤドカリ、まさかヤコウガイに住めるくらいでっかくなるとは…。

 そんな巨大コモンヤドカリとの出会いも今は昔、そもそもそのような大きな巻貝が少ないこともあってか、水納島では腰を抜かすほど巨大な個体に会うことは、少なくとも日中はまずない。

 冒頭の写真のコモンヤドカリは、イトマキボラという貝をおうちにしている。

 その他サザエなど、殻が厚くて殻口が広い貝が好きらしいコモンヤドカリ。

 夜行性だからか体の色も赤くて派手めでしかも剛毛とくれば、ケバケバしく毛羽毛羽しいイメージたっぷりなのだけど、若い個体は小ぶりでわりと可愛らしい。

 とはいえ↑これが育つと↓こうなるわけだから…

 コモンヤドカリのイメージは、「カワイイ♪」方向にはなかなかぶれそうもない。