エビカニ倶楽部

モクズショイ

甲幅 20mm

 モクズショイの存在を知った頃は、モクズショイなのかモズクショイなのか、かなりこんがらがったものだった。

 生物学的生物の和名表記はカタカナが基本だからそうなってしまうのであって、最初から「藻屑背負い」と漢字(意味)で覚えればよかったのだろう。

 モクズショイはもっぱら夜に活動するカニだから、水納島では日中のダイビングで出会う機会はほとんどない。

 夜に潜ったからといって、百発百中で会えるほど個体数が多いわけでもない。

 盛んにナイトダイビングをしていれば出会う機会もそれなりに多くなるのだろうけれど、21世紀になってからは数えるほどしか夜に潜っていないため、個人的にすっかり「レア」なカニになってしまった。

 数少ない撮影チャンスだった冒頭の写真は前世紀に撮ったもので、脚が画面からはみ出してしまって残念な思いを抱いたものだったけど、たとえ脚の先まで画面に入っていたとしても、いまひとつカニの輪郭がハッキリしないように見えてしまうことに変わりはなかったことだろう。

 それもそのはず、このモクズショイは、カモフラージュのために体表にいろいろなものをくっつけているのだ。

 体にくっつけるものについては、色、素材、形状に特にこだわりはないらしく、そこらにあるものをとにかくくっつけましたという感じで、出来上がりをまったく考えずに作成した抽象モザイク画のような、なにがなんだかわからない姿になっていることもある。

 それこそ彼の意図するところなのか、ジッとしていると、もうどこにいるのやらさっぱり分からなくなる。

 とはいえ昼間はもっぱら岩陰に潜んでいるから、擬装の意味はあまりなさそう。

 夜になると、輪郭不明のモヤモヤした外見からは想像できないほどに、活発にウロチョロしている。

 完璧なカモフラージュで見た目正体不明ではあっても、脚の端から端まで10cmくらいあるこの姿で砂底をテケテケ歩いていれば、かなり目立つんじゃ…。

 そもそも夜は暗いのだから、これまた擬装していようがいまいが、あまり意味がなさそうに思えるのだけど、とにかくこんにちまでモクズショイが地球上に生き残ってきたのは、この擬装作戦が効果を発揮してきたおかげに違いない。

 そういえば昔「わくわく動物ランド」かなにかの動物番組で、このモクズショイを入れた水槽に、毛糸やらなにやら、人工的なカラフル素材を入れ、はたしてモクズショイはそれらを体に付けるか、という実験をやっていた。

 結果、モクズショイはくっつきにくいもの以外ならたいてい何でもOKで、水槽の中のモクズショイあらためケイトショイは、カラフルな毛糸に包まれたハデハデモンスターになっていた(近年は各地の水族館で、そのお遊びをしたモクズショイが展示されていることもある)。

 そのハデハデケイトショイを見るかぎり、自然下で自然物を利用した擬装がカモフラージュ効果抜群になっているのは、モクズショイが効果を計算したものではまったくなく、単なる偶然である気配が濃厚だ。

 であれば、海中に散らばる千切れたモズクをたくさん身につけた、モクズショイあらためリアルモズクショイもきっとどこかにいるに違いない…。