エビカニ倶楽部

ムチカラマツエビ

体長 10mm

 ムチカラマツは、岩からニョキニョキと針金のように伸びるサンゴの一種。

 ダイビングを始めて間もない方に「実はこれ、サンゴです」と案内すると、たいていのヒトが驚いていくれる。

 そしてそのサンゴに小さな生き物が暮らしていることを知ると、さらに驚くことになる。

 ムチカラマツに暮らす代表的な魚といえばガラスハゼだけれど、エビの代表選手はなんといってもムチカラマツエビ。

 ムチカラマツに身も心もとけ込んでしまっているといってもいいほどで、実にわかりやすいダイレクトな名のとおり、彼女はムチカラマツにヒシとしがみつき、

 「私はムチカラマツ……」

 と自らに言い聞かせているかのようにジッとしている。

 大きくプリッと成長したメスでも、せいぜい1cmほど。

 体長がムチカラマツの太さほどしかない若い子あたりになると、クラシカルアイではとてもつらいサイズになる。

 なのでクラシカルアイだと写真で確認する以外に手はないかもしれないけれど、ムチカラマツエビの成熟したメスは、体に比したハサミ脚のサイズはとっても小さい。

 それに対しオスのハサミ脚の対体比は大きい。

 ペアでいる場合は、おおよそこの組み合わせだ。

 ただし個体によっては、ハサミのサイズはややオスっぽいのに、頭部には次卵が見えていることもある。

 パートナー獲得は、浮遊生活を終えて流れ着いたムチカラマツでの偶然の出会い頼みの彼らのことだから、やはりムチカラマツエビも性転換するものなのかなぁ…と想像しつつも、そのように解説している図鑑等は目にしたことがない。

 でもこういう形態でメスになっている様子を見ると、やっぱり性転換OKってことなんだろうか。

 1本のムチカラマツはチビを除いてペアが独占するものなのかと思いきや、あまりヒトが訪れないおかげか2~3mもの長さに育っているムチカラマツに、5~6匹のオトナサイズのムチカラマツエビがついていたこともあった。

 ↑これはそのうちの3匹だけだけど、小さいとはいえ1本のムチカラマツにオトナのムチカラマツエビが5~6匹がズラリと並ぶ様子はなかなか壮観だった。

 逆に、宿主が小さすぎるあまりに思わず目を瞠ってしまったこともある。

 傍らにいるヒメゴンベと比してもわかるとおり、このムチカラマツはまだ育ち始めたばかりで、カイメンに隠れている部分を含めても20cmほどしかない。

 ところがそんな極小サイズにもかかわらず、矢印の先には……

 なんとペアが!

 「ムチカラマツエビが暮らしているムチカラマツのミニマムコンテスト」があれば、優勝間違いなしの人生ミニマム記録である。

 このどう見ても薄幸のペアは、ひと月ほどはずっと観察できたのだけど、残念ながらシーズン終了を待たずに姿を消してしまった。

 新天地を求めて夜中に決死の大移動をしたのだろうか…。

 ところで、これまでに紹介している写真だけ見ても微妙にエビの色味が異なって見える。

 ムチカラマツエビの体は基本的に透明で、そこにムチカラマツのポリプの色に合わせて色味を変えることができるらしい模様が入っているため、宿主のムチカラマツの色に応じてエビ自体の見た目の色味が変わるためだ。

 でも基本的に透明だから、甲羅越しに卵が見えるし……

 夜になるとビヨビヨ伸びて色がナイト仕様に変わるポリプの色に合わせ、エビの色味も随分変わる。

 オスだメスだ、ハサミ脚のサイズだ色だといっても、それらはすべて見えてこそ。

 こういった細々したことはクラシカルアイのみなさんにとっては肉眼で確認するのは不可能で、しかもじっくり見ようと顔を近づけたりカメラを寄せたりすると、ムチカラマツエビはスルスルスルと反対側に隠れてしまう。

 もはやいかんともしがたい。

 そのため、見えないモノについてはど―でもよくなっているヒトたちは、見えていないのにとりあえずOKサインを出してその場をやり過ごすことになる。

 しかしなんとも悩ましいことに、現在ムチカラマツと呼ばれているエビたちは実は複数種いるらしく、近いうちに新しい種類がポコポコ登場する見込みという。

 実際、ムチカラマツの親戚のサンゴで観られるムチカラマツエビは、色味だけではなくてなんとなくイメージが異なって見える。

 でも住んでいるサンゴ種類と色味のほかに、もし↓この両者に「有意な差異」があったりしたら……

 それはもう、けっして立ち入ってはならない禁断のエリア51になってしまうかもしれない。

 できることならそっとこのままにしておいてもらいたいところながら、勢力を拡大していくいっぽうのアカデミズム変態社会がジッとしているはずはない。

 ヘタをしたら我々がこれまでずっと「ムチカラマツエビ」と信じていたものが、まったく異なる新しい名前になっちゃったりして…。