エビカニ倶楽部

ルリマダラシオマネキ

甲幅 30mm

 学生時代のことながら、このカニを研究していたある先輩は、調査のためにわざわざ本島から西表島まで通い、ついには西表に移住した。

 それほど魅力的なカニなのだ(※一部の個人の感想です)。

 できることなら私もぜひ見てみたいところだったけれど、それは八重山まで行かなければかなわない夢、と思っていた。

 ところが。

 水納島に越してきたばかりの頃、ギンギンギラギラの殺人的日差しにヒーヒー言いつつ、裏浜の干潟を歩いていたときのこと。

 そろそろシオマネキたちの生息域を越えるかな…というくらい随分沖側に来たあたりで、普段見るシオマネキたちの巣穴よりも一回り大きな穴があることに気づいた。

 沖側だけに干出している時間は短い場所だから、まさかシオマネキの巣穴とは思わず、きっと他のカニ類か何かだろうと漠然と考えていたところ、その穴へ入ろうとするこの派手な色のカニの姿が。

 ルリマダラシオマネキ!

 水納島にもいたんだ、ルリマダラ…。

 水納島の干潟で観られる4種類のシオマネキの仲間たちのなかで、ルリマダラシオマネキはひときわ異彩を放っている。

 当時の記憶と観察力がたしかならば、ルリマダラシオマネキが見られるのは前述のとおり干潟の相当沖側で、個体数もそれほど多くはなかった。

 そのためリニューアル前のこの稿では、「穴の数は他のシオマネキたちに比べると随分少なく、今まで大人のオスしか見たことがない」と書いていたくらい。

 この色柄を見落としたり見誤ったりしていたとは思えず、「この地で繁殖しているのかどうかも疑わしい少数派」とも書いていたから、当時はホントに少なかったのだろう。

 それが今や、砂浜近くあたりからいきなりルリマダラシオマネキの姿が見られ、ほんの少し沖側に行くだけで…

 …あたり一面ルリルリ状態。

 これはベニシオマネキが減少していることと関連した、何かの環境要因のなせるワザなのだろうか?

 ウジャウジャいるところまで歩いていくと、気配を察知した彼らは一斉に巣穴に隠れてしまう。

 そこで慌てることなく、ただただジッとしていると、上の写真のように再びジワジワと巣穴から姿を現すルリマダラシオマネキたち。

 せっかくだから、同じジッとするのなら立ちっぱではなく、寝そべってカニ目線で眺めてみることにしよう(※寝そべるとドロドロになるので、それ相応の格好をしておく必要があります)。

 彼らの天敵といえば、通常は鳥たちだ。

 見つかった!と思った瞬間には捕食されているという、厳しい厳しいサバイバル生活を日々送り続けている。

 そのため彼らの危機管理能力は高く、周囲に自分より大きな動くものを察知すると、前述のようにたちまち巣穴に引っ込んでいく。

 でも潮が引いている時間帯というのは、彼らにとっては待ちに待ったお食事タイムなわけで、リスク回避だけを優先していつまでも巣穴でジッとしているわけにはいかない。なので…

 危険ぽい??

 とは思いつつも、

 …きっと大丈夫だよね??

 と期待する気持ちも強い。

 巣穴の入り口近くでジッと観察していると、出ようか引っ込もうか、逡巡する彼らの姿が観られる。

 そうやって逡巡しているルリマダラシオマネキをレンズ越しに眺めていると、ある発見をしてしまった。

 彼らの目には毛が生えている!

 これはシオマネキ類に共通した特徴のようだ。

 だからどうなのよ、って言われると困っちゃうけれど、寝そべってジッとしていると、レンズ越しとはいえお目目の毛まで見えちゃうほど接近可能という証ではある。

 やがて周辺でも警戒心をほぼ説いたルリマダラシオマネキたちが、ソロリソロリ…と巣穴から出てくる。

 外に出ている最大の目的はお食事だ下の写真はメス)。

 また、誰を相手にしているのか不明ながら、鋏を振り上げたままのポーズを決めているオスもいる。

 食事以外で大事なことといえば、それはもちろん繁殖行動だ。

 ひとつの巣穴に仲良く2匹が入っていることはないようだから、彼らにとっては潮が引いている時だけが出会いのチャンス。

 そのため昼日中から、おアツイ2匹が白昼堂々と交尾していることもある(エビ・カニたちは基本的に正常位)。

 メスの巣穴の入り口付近にオスが来て行われていた。

 隣同士で巣穴を構えているこのカップルの絆は相当固いようで、周りには横恋慕しているらしきオスがいるにもかかわらず、メスはまったく無関心。

 二人のために世界はあるの

 といわんばかりのアツアツぶりだった。

 みながみな一様に同じことをしていないあたり、カニさんたちにも立派な社会が築かれているようで面白い。

 そろそろ潮が満ちてこようかという時間帯になると、シオマネキたちも帰り支度を始めるらしい。

 その際、エサ採りのために作った泥団子を巣穴の蓋にするオスの姿もあった。

 足を踏み入れることすら躊躇してしまうほどに一面泥だらけの世界になる干潟にも、実に魅力的な生き物たちの暮らしがある。

 そしてまた彼らは、そういう環境でしか暮らせない生き物たちでもあるのだ。

 真夏の炎天下でのシオマネキ観察は、くれぐれも熱中症にご注意ください。