エビカニ倶楽部

サメハダヒメガザミ

甲幅 20mm

 ガザミの仲間たちには、マルガザミナマコマルガザミなどかわいい系のほか、近年では深い海に静かに口を開けている未踏の洞穴内で次々に激珍系宇宙的フォルムのガザミ類が発見されたりもして、水産資源ではなくともメジャー路線を歩んでいるものたちがいる。

 ただ、基本的にガザミの仲間というと、いかにも「ガザミ」的なフォルムでなおかつ色彩も乏しい種類のほうが圧倒的に多く(※個人の感想です)、「カワイイ♪」とか「カッコイイ!」といったあたりに絶対の価値基準を置く方々には、彼らはとにかくひとまずなによりすなわちスルーされることになる。

 スルーされる率でいうなら、サメハダヒメガザミも相当な高さを誇っていると思われる。

 ただ、日中の彼らは砂底の表面付近で砂をかぶって潜んでいることが多く、何かの拍子にその姿を見かける、ということがよくある。

 ↓これはビーチの波打ち際、膝下30cmほどの水深のところでサンシャインダンスを撮っていたときもの。

サメハダヒメガザミ

 こういうところでカメラを構えると肘もカメラも砂底についてしまうため、せっかくのんびり休憩していたサメハダヒメガザミが迷惑そうに姿を出したところ(PCでご覧の場合は、写真をクリックすると大きな画像になります)。

 こういうところにいると、たとえカニ本体は地味地味ジミーでも、レインボー光線のおかげでなんだか鮮やかになる。

 このように、探しているわけではなくても会う機会があるサメハダヒメガザミ。

 もっとも、それはビーチのような浅い砂底環境でのこと…

 …と思い込んでいたところ、リーフの外の砂地のポイントでも遭遇した(冒頭の写真)。

 リーフの外でも、彼らの好にあう砂底環境ならさほど深さは問わない、ということなのだろう。

 日中の彼らはいつも砂中に隠れているわけではなく、表を出歩いていることもある。

 ハサミ脚を横に広げ、自分を大きく見せようというポーズがいかにもガザミチック。

 でもその姿をカニ目線で眺めると、なんだか映画「プラトーン」のウィレム・デフォーのようなポーズにも見える。

 日中はこのように砂下に隠れていたりテケテケ歩いていたりするサメハダヒメガザミには、ヒミツの夜があった。

 その昔ビーチでナイトダイビングをしていた際に出会ったのは…

 …デート中の2人。

 撮っている時には気づかなかったのだけど、後日現像があがったフィルムを見て思わず笑ってしまった。

 こちらを向いているサメハダヒメガザミの顔つきが、なんだか出っ歯&みそっ歯みたいに見えるのだ。

 こんな顔で2匹でいられたら、サメハダヒメガザミなんてしゃっちょこばった名前じゃなくて、ついついサメハダ君と呼びたくなる。

 このみそっ歯は実際には顎脚と呼ばれる部分で、エビ・カニには普通に見られるもの。

 そこに毛のようなものがついていて、小さな食物を濾し取って食べるものもいれば、このサメハダ君のように顎脚で食べ物を引きちぎるものもいる。

 いずれにせよさすが「節足」動物というだけあって、ほとんどのカニは、たくさんある関節を巧みに使い、この顎脚をうまいこと狭い収納スペースにキチンと折りたたんでいる。

 ところがサメハダ君の場合はキチンと折り畳みきれないのか、顎脚が出っ歯のみそっ歯になってしまうのだ。

 しかも抱き合うようにしてこっちを見ている2匹がともにその顔…。

 子供たちが歯科矯正をするのが当たりまになっている21世紀のこんにちでは、出っ歯でみそっ歯なんてマンガの世界でしか見かけなくなっていることもあって、このサメハダ君の顔は、おかしいのと同時になんだか妙に懐かいのだった。