エビカニ倶楽部

スカシモエビ

体長 15mm

 ある日水深30mくらいの砂底に、ウミシダがポツンと鎮座していた。

 一望白い砂が広がる海底にポツンとたたずむ棘皮動物といえば、いうまでもなくエビカニチェックポイント。魅惑的な魚だって寄り添っているかもしれない。

 私は誘蛾灯に導かれる蛾のように、ついフラフラと引き寄せられていた。

 その少し前に、同じような状況で砂底に佇んでいたウミシダで、イナズマヒカリイシモチというややレア系の魚を発見したばかりでもあったから、「2 匹目のドジョウ」という思いが頭をかすめていたのも事実である。

 近寄ってみると、ドジョウはいなかったけどエビがいた。

スカシモエビ

 PCでご覧の場合は↑この写真をクリックすると大きな画像になるので、エビを探してみてください。

 そこにいたのは、アカシマシラヒゲエビやホワイトソックスに比べると随分小ぶりなモエビで、ウミシダ上でとっても繊細な雰囲気を醸し出していた。

 フィルムで撮っていた時代なので、その場で撮った写真を確認できないため光が当たった状態の色はわからず、肉眼ではずっと若草色に見えていた。

 エビはウミシダを拠り所にしているようなのだけど、ウミシダのほうはどうも嫌がっているように見え、脚下から触手の方へエビが移ると、ウミシダは身もだえしてエビを避けていた。

 試しにエビに指を差し出してみると、エビ君は爪の間をチクチクとクリーニングしてくれた。アカシマシラヒゲエビフォルムの外見どおり、クリーナーなのだろう。

 でも若草色のクリーナー系モエビなんて、図鑑で観たことがないなぁ…と思っていたところ、その後随分経ってから写真が現像されてきてビックリ。

 実は赤いラインが入った鮮やかボディのエビだったのだ。

 いずれにせよ手持ちの図鑑には載っていないし、当時エビカニ最新情報をコンスタントに掲載してくれていたIOPニュース(伊豆海洋公園通信)のバックナンバーを調べてみてもビンゴ!を見つけられなかったので、これはきっと新種もしくは日本初記録種に違いない、と期待に胸を膨らませ、意気揚々と当サイトに当時あったニュースコーナーにアップした。

 ところが、当時いろいろご教示いただく機会が多かった千葉県立博物館の奥野先生にうかがったところによると、このエビはスカシモエビという名で、IOPニュースにも載っている、とのことだった。

 もう一度IOPニュースを探してみると、はたして、しっかりその名で載っていた。

 七たび探してから人に訊け。

 あれから20年以上経った今さらながら、お騒がせして失礼いたしました…。

 ともかく若草色ではなかったエビは、新種でも日本初記録種でもなかったのだ。

 ただ、IOPニュースには「稀」と書かれてあったので、ほんの少し救われた…。

 先生に当時ご教示いただいたところによると、本来はウミシダなどを住処とするエビではないらしく、これは砂底にポツン…ならではのたまたまだったようだ。

 その後時は流れ、砂底にウミシダがポツン…なんて状況すらレアになってしまった2014年に、これまた水深30m超と深いところで久しぶりに再会した。

 そこは付着生物がたくさんついているところで、なかには真っ赤なカイメンもあって、それがお気に召しているのか、ウミシダにいたものと比べると遥かに真っ赤なボディのスカシモエビが、いついっても複数匹いることが長く続いた。

 赤いカイメンの上にいてこそ体が真っ赤に見えるけれど、カイメンの上じゃないところにいれば、特徴的なシマシマ模様がハッキリ見える。

 でもカイメンの上にいるのに縞々がハッキリ見えるものもいる。

 これは初遭遇時のウミシダにいたものに似た感じだ。

 そうかと思えば、カイメンの上じゃなくても真っ赤に見えるものもいた(チャツボボヤの下はカイメンですが…)。

 真っ赤なタイプの脚の色は黄色味が強く、縞々クッキリだと脚は白っぽい。

 このテのエビたちには魚のようにそのときの感情で体色が咄嗟に変わる仕組みはないはずだから、これは成長段階による差なのだろうか、それとももともとタイプが異なるのだろうか?

 ファーストコンタクト時には若草色に見えただけあって、彼らの体色は一筋縄ではいかないのだった。