甲幅 10mm
よほどのうっかり八兵衛でもないかぎり、他に何も動いているモノがいない視野の中で何かが目の端をよぎったら、人はたいてい反応できるようになっている。
ましてやマクロ撮影用のカメラを携えて意識が集中しているときに2~3cmのものが動けば、すぐさま反応し、何なのか確認したくなる。
ナイトダイビングは日中のダイビングに比べて少なからず身に緊張感がみなぎるものだけど、ライトの照射範囲が視野になるため、普段よりも狭い範囲に意識が集中する。
おまけに水納ビーチのような浅いところだと、夜でも非常にリラックスでき、その分小さなものにも敏感に反応できる。
夜に活動する小さなエビ・カニを発見するにはもってこいの状況だ。
昼間に見られないのに夜になると姿を現すエビやカニの種類は多いとはいえ、そもそも個体数が少なければ出会う機会はそれほどない。
一方個体数が多いものは、それこそ「ワラワラ…」といっていいほど姿を現している。
ツノヒメガザミも「ワラワラ…」のクチだ。
砂の上をモゾモゾ、岩の上をゴソゴソ、あっちでカサカサ、こっちでシャカシャカ…している姿をそこかしこで観ることができる。
初めのうちこそ「愛いヤツじゃ」と思う。
小さな体にもかかわらず、横に張り出した立派なツノもカッコイイ。
でもせっかくのナイトダイビングのこと、他にもいろいろ夜ならではのエビやカニに出会いたいという時に、
「おっ、何か動いたぞ?」
と思って近寄るとツノヒメガザミ。
「あっ、何かいたぞ?」
と思ったらまたツノヒメガザミ。
「ワッ、今度は誰だ?」
と思ったらさらに再びツノヒメガザミ。
15分近くもエンドレス・ツノヒメガザミ地獄にハマってしまうと、さすがに…
「またおまえか!」
という扱いに変わるのだった。
とはいえ夜だからこそ「ワラワラ…」なのであって、ナイトダイビングをする機会がほとんど無くなっている今、ツノヒメガザミがなんだか無性に懐かしい。
今会えば、まず間違いなく三階級特進で「愛いヤツじゃ」に再昇格することだろう。
ただしその有効期限は15分だけかもしれないけれど…。
ところで、ひところは夜中にさんざん出会っていたにもかかわらずまったく身に覚えがないことに、このツノヒメガザミは体表の色味をイカのような素早さで変えることができるという。
ライトを浴びて警戒しているときと、リラックスしているときなどでは色味の違いは顕著だそうで、見る見るうちに変色させてしまえるのだそうだ。
日中と夜中で体色を変えるエビやカニはいろいろあれど、体の色が素早く変わるなんてのは観たことがない。
15分もつき合っていて、いったい何を観てたんだろう…。
ともかくも色を変えるということは、ひょっとすると↓これもまたツノヒメガザミなのかもしれない(違うかもしれない)。
これは日中にナマコの表面にいるところを撮ったものだ。
おそらくナマコを引っくり返したのだと思うけれど、なにしろフィルムで撮っていた前世紀の写真なのでまったく覚えていない。
夜中に出会っていたツノヒメガザミとは色味がまったく異なるものだから、フィルムマウントには「ツノヒメガザミ(?)」と自信無さげに書いてある。
日中でも状況が変わると、色を変えてくれていたのだろうか?