海のなんじゃこりゃ?

其之三十一

コブ付きと呼ばないで

 クラシカルアイになると肉眼ではディテールが見えないため、見えないことにイラッとくることもある。

 でも実は、人によっては見えないことで難を逃れているということもある。

 海は好きだけど異形のクリーチャーはご勘弁…という方にとっては、そこらじゅう異形クリーチャーだらけの海中では、むしろ見えないほうが都合がいいかもしれない。

 冒頭の写真のアカホシカクレエビは、ガラス細工のような美しい透明ボディがステキな小さなエビなんだけど、ファインダー越しにじっくり見ていたら、妙なところにコブがある。

 クラシカルアイの肉眼では、気がつかないサイズだ。

 初めて目にしたときは、こういう特徴を備えた別タイプのエビなのかなと思ってしまった。

 でも他のケースでは…

 コブがエビの体の中心で左右非対称。ハサミが左右で大きさが異なるということはあっても、コブが体の一部なのだとしたら、左右非対称ということはあるまい。

 ということは寄生虫?

 この妙なコブが気になりだすと、よく見ればいろんなエビでもコブコブしていることに気がつく。

 ソリハシコモンエビはこぶ取り爺さんみたいになっているし……

 よりにもよって5mmほどのフィコカリス・シムランスについているコブもある。

 さらに小さな、2mmほどのヒメオオメアミの背中にだってピッタリフィット。

 いったいぜんたいなんじゃこりゃ!?

 実はこのコブ、エビヤドリムシという生き物で、ダンゴムシに近い甲殻類なのだそうだ。

 もちろんながら1つの種ではなく、エビヤドリムシ科には100属くらいメンバーが揃っているというから、種となるととんでもない数になると思われ、観たことがあるものだけでもその色形は様々だ。

 こういうものを見たら全身に寒イボが!!という方でも、クラシカルアイなら海中でそんな目に遭う心配は無い。

 でもファインダー越しに度アップ状態で覗いているときに、寄生虫が突如視野に現れると……。

 エビカニにカメラを向けているような変態社会人さんは、眼の色を変えて寄生虫にピントを合わすに違いない。

 宿主となるエビの種類ごとにエビヤドリムシの種類も異なるのかどうかは知らないけれど、エビヤドリムシは、活発に遊泳するものから宿主の表面でジッとしているものまで、行動もサイズも様々なエビで観られるようだ。

 寄生虫とはいっても内臓や筋肉など体内に入り込むものではなく、体外にピトッとくっつくのが専門の外部寄生虫で、甲羅の一番外側の殻のその内側で成長するのだとか。

 そのため寄生虫自身にエビの模様が入っているように見えることもある。

 エビヤドリムシが宿主に対してどのような悪さをしているのか、詳らかなことは知らないけれど、観た感じはかなり鬱陶しそうに見える。

 ↓写真をよく見ると、エビヤドリムシが脱糞しているように見えることもある。

 さすがに甲羅の殻内で脱糞するのはエビヤドリムシ的にも困るから、エビの体「外」に排泄するのだろうか。

 ともかく顔の横にボコンとエビヤドリムシをつけているソリハシコモンエビは、ナニゴトもないかのようにフツーにホバリングをする。

 もっとも、いくら本人が平気でも、ここを訪れるクライアントさんとしては、こんなコブ付きのセンセイにクリーニングケアをしてもらうってのも、なんだかビミョーな感じかもしれない…。

 追記

 本文中でも紹介しているように、エビヤドリムシの仲間はやたらと種類が多く、宿主ごとといっていいくらいに細分化されていて、アカホシカクレエビへの寄生に特化しているものには、「アカホシカクレノコシヤドリ」という和名が、そしてヒメオオメアミなどのアミ類寄生するものたちは、「アミヤドリムシ類」というグループ名がある。

 そこまで細分化されている以上、ソリハシコモンエビやベンテンコモンエビについているものにも、ひょっとすると「ソリハシノコシヤドリ」とか、「ベンテンノハラゴモリ」なんていう名前がつくかもしれない。

 いまだ和名がついていないフィコカリス・シムランスの場合、寄生虫のほうに先に和名がついちゃったりして…。